トランプ大統領を取り巻く三重の権力構造

4月29日、トランプ米大統領が就任100日目を迎えた。就任に先立って、トランプ大統領は就任100日以内に実現する公約を列挙した「100日計画」を公表している。しかし大統領令を乱発してきたこの100日間で実現できたことといえばTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からの離脱と不法移民の取り締まりを強化したぐらいで、100日計画に盛り込んだ公約の大半は手つかずのままだ。公約の目玉だったメキシコ国境の壁建設は予算計上が来年度に先送りされた。オバマケア(オバマ政権の医療保険制度改革)の撤廃については、議会の支持が得られずに代替法案を採決直前で撤回するハメに。再挑戦した案は下院を通過したが上院では難産が予想されている。イスラム圏7カ国からの入国を制限する大統領令にしても、各地の連邦地裁や連邦控訴裁から執行差し止めをくらって、立ち往生している。

空振り続きの内政をさておくように、活発なのが外交。4月に入って中国の習近平国家主席との首脳会談、その最中に化学兵器の使用が疑われるシリアの空軍基地を空爆し、さらには朝鮮半島有事に対応するために空母カールビンソンを主力とする空母打撃群を派遣した。これで多少は支持率が上がったものの、世論調査による100日目の支持率は44%と最低の数字だ

法人税率を35%から15%に引き下げるなど史上最大規模の減税を発表して巻き返しも図っているが、税収不足を補う対応策を示していない状況では、大胆な減税案がそのまますんなりと議会の承認を得られるとは到底思えない。オバマケアを葬り去るための代替法案を共和党内の造反もあって引っ込めた結果、戦々恐々としていた与野党の双方に「トランプ恐るるに足らず」という感触を与えてしまったからだ。今後は予算でも何でも議会の承認を得るのに苦労することになりそうだ。

指名人事が大幅に遅れて政権の陣容が固まらないことも、政策履行上の大きな問題だろう。アメリカでは大統領が閣僚や大使、省庁の高官などのポストを漸次指名しては、上院の承認採決を経て決定する仕組みになっている。就任100日までに、約550の主要ポストのうち承認されたのは閣僚を含めて27ポストのみ。就任100日で67人が承認されたオバマ政権と比較しても、トランプ政権の人事は大幅に遅れている。指名人事が捗らないのは民主党の抵抗もあるのだが、そもそもトランプ大統領が未指名のポストが多い。通常、新しい大統領が誕生すると、各方面の識者、インテリを集めたアドバイザリーボード(諮問委員会)が形成される。そこでは指名人事のアドバイスも行われる。だがトランプ大統領の場合、選挙キャンペーン中からいわゆる「良識派」と呼ばれる人たちを寄せ付けない雰囲気をつくってきて、政権発足後も二重三重に識者が近寄りがたいような政権運営をしてきた。従って親身になって知恵を貸したり、人材を紹介したりするアドバイザーが乏しいのだ。