【1】がんがん貯蓄 vs なるべく節約

最も危険なタイプは「高年収で貯蓄なし」

「老後のために、いくら用意しておけばいいのですか」とよく聞かれる。そのとき私は「リタイアまでにいくら貯められるか、わかりますか」と聞き返すようにしている。現在の収入と支出を正しく把握できていれば、貯蓄できる金額はすぐにわかるはずだ。

ほかには「低金利で困っている」という相談も多い。私は「では何%の金利を想定していますか」と聞き返す。誰しも将来は不安だろう。だからこそ、「わかる部分」を積み上げて、「わからないこと」に備える必要がある。

そのうえで読者に伝えたいのは、「年収の高低と老後の安心にはまったく関係がない」ということだ。年収が高い人は、浪費が習慣化していることが多い。「入った分だけ使う」という人が驚くほど多いのだ。外食、クルマ、家電、旅行……。全方位に贅沢をしていると、本人は贅沢をしているつもりがない。公的年金の保険料には上限があるので、現役時代に高収入でも、それに応じて年金額が増えるわけではない。十分な貯蓄がなければ生活水準をグッと下げなければ長い老後を過ごせない。

一方、年収が低い人は節約が身についているので、公的年金でも生活に不満をもつことが少ない。安定した職業についているのであれば、家計をすこし見直すだけで、退職までに十分な資産を形成することができる。特に共働きであれば、2人分の年金が入るため、老後の暮らしぶりもより安定する。

国の家計調査(2014年)によると、世帯主が60歳以上の無職世帯(2人以上)における1カ月間の支出は27万7860円。これに対し公的年金などの実収入は20万6992円だった。つまり差額の約7万円を、貯蓄から毎月取り崩している。「いくら必要か」という疑問へのひとまずの回答としては、月7万円×12カ月×25年(65歳から90歳まで)で、約2100万円という金額になる。これはリタイアまでに最低限貯めるべき金額だ。

リタイアまでにこれ以上の貯蓄がつくれるか。現在の収入と支出の差を算出してみてほしい。収入には、現在の貯蓄額、いま勤めている会社を退職するまでに見込める収入、退職金の予想額、夫婦の公的年金額(毎年届く「ねんきん定期便」が参考になる)など。支出は、住宅ローンなどの負債、子どもたちが独り立ちするまでにかかる教育費、毎月の生活費などだ。

現金での貯蓄は、最も使途が広い最強の資産だ。投資や保険などを考える前に、十分な貯蓄をつくることを優先させたい。