2つ目は、「上っ面を真似ようとする」ことです。これには、「他社観察」と「自己観察」という2つの側面があります。「他社観察」の問題は、成功の原因を理解していないことです。ヤマト運輸が宅急便を立ち上げた直後、多くの運送会社が宅配事業に乗り出して失敗しました。その理由は、成功のカギとなったハブ・アンド・スポーク(中軸になる拠点〈ハブ〉から放射線状に輸送網〈スポーク〉が延びるようなネットワーク)を理解せず、動物のキャラクターという表面だけを真似たからです。一方、「自己観察」の問題は、自社の既存事業との矛盾に気づかないことです。例として、大手航空会社がLCCの生みの親であるサウスウエスト航空を模倣しようとして失敗したケースが挙げられます。自社が行ってきた既存のハブ・アンド・スポークの航路やフルサービス体制と、サウスウエスト航空の2都市間を直接結ぶポイント・トゥ・ポイントの航路や格安サービス体制が矛盾を引き起こすことに気づかなかったのです。

そこで必要になるのが「観察力」です。アメリカのチェーンストアをお手本に、家具業界において低価格・高品質のバリューチェーンを実現したニトリHD創業者の似鳥昭雄氏は「物事はすべて立体で、四次元で表さないと本質というのはわからない。一枚の絵を見たときに、その絵の奥行きはもちろん、その世界の空気や温度や時代背景までも観察する」(「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」12年8月号)と述べています。多面的に、見えないところも観察する訓練が求められます。

ヤマト運輸やセブン-イレブン、ドトールコーヒー、ニトリなどの成功企業は、会社が厳しい時期でも意識的に海外を視察し、見聞を広めています。

3つ目は、「実行力の不全」です。これにはさまざまなケースが考えられますが、まず「技術力がついていかない」こと。11年に中国の高速鉄道で起きた事故は、日本などの技術を模倣したものの、技術力が不足しているにもかかわらず応用を急いだためでした。また、「資金不足などで機会を逃す」ケースもあります。後にフェイスブックがその仕組みをお手本にしたフレンドスターは、アメリカでSNS事業をヒットさせましたが、資金不足でユーザーの急増にサーバーの台数が追いつかず、失敗しました。ベンチャーによく見られるケースです。そして、もう一つ挙げられるのが「応用や適応ができない」こと。海外や異業種の企業から模倣する場合は、そのまま模倣したのでは困難が生じます。それを創造的に解決できないと、成功できません。

ここで必要になるのは「実行力」、やり切る力です。自らの地域や業界の脈絡に合わせて、つくり替えたり、出てくる課題を創造的に解決していく力が求められます。例えばセブン-イレブンは、30坪程度の店舗で3000品目もの品揃えを実現するために、従来のメーカー縦割りの物流システムを変え、共同配送システムを生み出しました。ドトールは、低価格の立ち飲みスタイルのコーヒーショップを実現するために、都心の一等地に店を構えて回転率を高め、当時としては画期的な機械化を進め、注文を受けたらすぐにコーヒーを出せるように先行投資をしました。困難を乗り切るには、こうした実行力が不可欠です。