たとえ方便でも、正面から受け止める

「プレゼンをした相手の反応がよくなかったときでも、ポジティブにミーティングを終わらせるのが私の鉄則です。たとえ『この環境では絶対に上手くいかないよ』と絶望的なことをいわれても、『なるほど、たしかにそうですよね』と相手の言葉を正面から受け止める。断られて、落ち込んだら、それで終わりじゃないですか。そこで終わらせないために、強い意志をもって楽観的に働きかけていく。その繰り返しだった気がします」と小林りんはいう。

ISAK代表理事 小林りん氏

リーマンショックが世界経済に大打撃を与えた2008年、小林りんは前職を辞して、新しい高校をつくるプロジェクトを立ち上げた。彼女が構想したのは、ただの高校ではない。学校教育法に基づく正式な日本の高校でありながら、同時に全寮制のインターナショナルスクールでもあるという、異例の高校だった。

その高校の名はインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)。授業は英語で行い、教員の大半を英語圏から招聘する。生徒はアジアをはじめ全世界から募集。社会のあらゆる階層の子どもが学ぶチャンスを得られるように、全額給付を含めた各種の奨学金制度を充実させる(現状では、その原資の6割近くは地元軽井沢町に集まるふるさと納税である)。

もちろん、いまだかつてそんな高校が日本に存在したことはない。荒唐無稽なプロジェクトといっていいだろう。

学校設立に必要な資金は十数億円。学校は営利事業ではないから、資金提供者に金銭的な見返りはない。つまり彼女はそれだけの巨額な資金を、善意の寄付で集めなければならなかった。

簡単でないことは、彼女自身もよくわかっていたけれど、現実はさらに厳しかった。数限りないプレゼンテーションを繰り返し資金の提供を募ったが、3年近く経っても成果はほとんど上がらなかった。それでも、彼女が諦めなかったのはなぜか。

「私が超能天気なせいかもしれないけれど、強い思い込みがあったんです。こんないいことなんだから、誰もが賛成してくれるに違いないって。実際、ほとんどの方がこのプロジェクトそのものには賛成してくださったんです」