本連載をまとめた『ワルに学ぶ黒すぎる交渉術』(プレジデント社)が好評だ。詐欺・悪徳商法評論家である多田文明氏が自身の「被害実体験」を交えたワルの手口をリアルにレポートしたもので、読めば、被害を防止する「転ばぬ先の杖」となるだけでなく、ビジネス(営業や上司対策など)に使える。「人の心の動き」を読むためのテクニック集ともなっている。今回紹介するのは……。

「いい第一印象」で儲けるワルたちの手口

10年ほど前、私は詐欺・悪質商法を撃退する方法を思いついた。それは、あれこれ買わせようとする悪徳業者に対して、「お金がない」と言うことだ。

相手がこちらをいくら騙そうとしても「金がない」のだから、取れるものは何もない。それゆえ、「フリーターで、ローンを組めない」と言えば、ワルたちはたいてい去ってくれたものだった。

『ワルに学ぶ黒すぎる交渉術』多田文明(著)プレジデント社刊

しかし、今は事情がかなり変わってきている。

お金をさほども持っていなくても狙ってくるのだ。とりわけ今、注意喚起されているものに、「荷物転送を装ったアルバイト詐欺」がある。

手口はこうだ。

まず、ワルたちはSNSでの書き込みや口コミ、ネットの求人サイトなどを通じて、不特定多数にアルバイトの情報提供をする。これに興味を持った応募者が連絡すると、情報提供をしたワルは仕事内容をこう告げる。

「あなた宛に送られた電化製品、電子機器を所定の場所に送る(転送する)仕事です」

アルバイト料は荷物を1回転送するにあたり、なんと3000~5000円ほど。応募者は送り先を書いて送るだけの、自宅でできるコスパの高いおいしい仕事だと思ってしまう。

ただし、当然のことながら業者は罠を仕掛ける。応募者に対して言うのだ。

「商品には高額なものがあり、持ち逃げされたら困るので、まずあなたの身元を確認させてほしい」

もっともらしい言葉で、運転免許証や健康保険証を写真に撮って送信するように指示する。応募者は通常のアルバイトだと思っているので、それにすんなりと応じてしまうことが少なくない。

後日、応募者のもとに本人宛の荷物が届き、業者の指示のままに荷物を転送すると、アルバイト料がきっちり銀行口座に振り込まれる。お金が入ったことから、応募者はきちんとした会社なのだという印象を抱き、繰り返し荷物を転送するバイトを続けてしまう。