「再建の顔」となったゴーン氏

血も涙もない、言葉も通じないという触れ込みでゴーン氏は日産リバイバルプランに着手した。グループ人員を2万人削減する。工場を次々と閉鎖して余剰生産力を30%カットする。サプライヤーを半分以下にする。コストは13%削減――。やはり血も涙もない、性格の悪い人間にしかできない所業である。ゴーン氏はリバイバルプランを1年前倒しで完了した。リバイバルプランに懐疑的だったマスコミは手のひら返しで賞賛したが、これは決して難しくはない。なぜかといえば基礎的な技術力があるからだ。手荒なリストラをやった結果、ポンコツしか造れなくなったというレベルの技術ではない。技術的な裏付けがしっかりあって、それ以外のマネジメント部分に問題がある中で、ゴーン氏のような経営者がきて、やるべきことを当たり前のようにやったら、普通に立ち直っただけの話だ。

三菱自にも同じことがいえる。ゴーン氏が性格の悪さを丸出しにして三菱自をシャキッとさせたら、いい会社になる。技術力があるからだ。逆にいえばルノーをゴーン氏がいつまで経っても立て直せないのは技術力がないからだ。フランス政府が株の2割を握っている政治銘柄だから、人をバッサリ削ることもできない。対して三菱自はゴーン氏にとっては第2の日産であり、いじめ抜くだけでいい会社になってしまう。仮に間違っても5%の人たちは買ってくれる。冗長なコストを削るだけで利益が出るのだ。

ゴーン氏は日産ルノー連合でロシア最大の自動車メーカーアフトヴァスの株式を50.1%取得しているが、ロシア戦略のうえでも三菱ブランドは大いにプラスになる。ロシアには欧州車も日本車も入ってくるから、「(知名度の低い)ルノーと日産が資本参加してアフトヴァスはよくなりましたよ」とアピールしても買う人は比較的少ない。しかし三菱車に対するロシア人の信頼感は半端ではないから、「三菱アフトヴァス」のようなブランドで出せば、相当いけるだろう。オーストラリアやインドネシアでも三菱ブランドを前面に打ち出せば一気に伸びる可能性がある。従って凡庸な経営者なら弱っている三菱自の株式を100%取りにいってもおかしくないが、計算高いゴーン氏はまだ動かない。燃料不正問題の補償で三菱自の赤字は今後さらに拡大する可能性がある。赤字が増えて収益が下がるということは、株価はさらに落ち込むということだ。

ゴーン氏としては改革の成果が出てくる前に払うものを全部払って、収益と株価が下がりきったところで議決権の取れる51%まで買い増して、完全連結子会社に持っていくつもりだと思う。その際には三菱御三家(銀行、重工、商事)の影響を取り除いても、「三菱」の名前を残して上場を維持する。そうしておけば相変わらず5%の日本市場は確実に取れるし、もれなく三菱UFJFGという心強い財布もついてくる。これぐらいの算段はしているはずだ。以前に日産のベストシナリオは「Go ne with the wind(風と共に去りぬ)」と指摘したが、三菱自再建(活用)という新しいテーマを抱えた以上、再建の顔としてゴーン氏の存在は欠かせない。高給取りのゴーン氏のおかげで報酬が何倍にもなった日産の役員からすれば、「引き続きよろしく。“ご恩”は一生忘れません」というところだろう。

(小川 剛=構成 EPA=時事=写真)
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