2兆、3兆と予算総額がみるみる増大

新国立競技場のデザイン変更にエンブレムの盗用問題と、招致には成功したもののトラブル続きの2020年東京五輪・パラリンピック。リオ五輪の引き継ぎも終えて、いよいよ開催準備に本腰を入れたいところだが、開催都市である東京都のトップが代わったことで、流れも大きく変わってきた。小池百合子新都知事は都議会の所信表明演説で「施設設備や開催経費について、説明責任を果たす」と不透明なオリンピック予算に切り込むことを宣言、大会経費の削減を目指して予算、競技会場計画の見直しに着手した。

不快感を示したのが計画をまとめあげてきた大会組織委員会。森喜朗会長曰く、「アスリートファーストでまとめてきたのに、スポーツやオリンピック、今までの約束事をご存じない方が来てガチャッと壊した」ということらしい。競技会場の見直しをめぐって東京都、組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)、政府の4者による協議で結論を出すことになっているが、着地点はまだ見えてこない。

東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(左)と武藤敏郎事務総長。(写真=AFLO)

招致段階の13年、2020年東京大会の開催経費について、組織委員会は総額7340億円と発表していた。資材費の高騰などを踏まえても8300億円で収まるとコンパクトぶりを強調していたのだ。

ところが、「最終的に2兆円を超えるかもしれない」(森会長)、「3兆円は必要」(舛添要一前都知事)と、内訳不明のまま予算総額だけがみるみる肥大化。そこに待ったをかけたのが「2兆、3兆って豆腐屋じゃあるまいし」と選挙中から批判的だった小池都知事だ。小池都知事が立ち上げた都政改革本部の調査チームが試算した結果、あらためて「3兆円を超える可能性」が公表された。さらに開催コスト増大の背景として関係組織全体のガバナンスの問題を指摘、推進体制のアバウトぶりを「社長と財務部長がいない会社」と例えた。

私に言わせれば、大会組織委員会のツートップである会長と事務総長に森氏と武藤敏郎氏を据えたのがそもそもの間違いだ。森会長は「国を挙げてのオリンピック。国威発揚のためなら、いくらカネをかけてもいいじゃないか」というタイプだし、武藤事務総長はその森政権下で事務次官をやった元大蔵官僚。森氏のためなら「カネはいくらでも刷ります」と言う人物だ。カネに糸目をつけず、ひたすら東京五輪を成功させたい2人がタッグを組めば歯止めはきかなくなるのは当然だろう。

森氏は総理経験者であり派閥のうえでも安倍晋三首相の“上司”だったわけで、政府も差し出がましいことは言えない。しかも五輪招致の言い出しっぺである石原慎太郎元知事と森氏は若手の頃から青嵐会(1970年代に自民党内で派閥横断的に結成された保守派の政策集団)でつながっている。オリンピック絡みのゼネコン利権(築地市場の移転問題も含めて)も阿吽の呼吸で図ることができる。後継の猪瀬直樹氏は石原氏の子飼いだし、自民党東京都連のバックアップで当選した舛添前知事も石原路線を継承しただけ。その間に五輪予算がどんぶり勘定で肥大化しても、誰も省みようとはしなかったわけだ。