長年にわたりフリーアナウンサーとして活躍する梶原しげる氏は、日常生活のなかで誰かの言葉に引っかかることが多いという。しゃべりのプロなら当然であろう。

梶原しげる(かじわら・しげる)
1950年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一法学部卒。文化放送に入社してアナウンサーとなり、92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)、日本語検定審議委員。著書に『まずは「ドジな話」をしなさい』など多数。

ただ、梶原氏がほかのしゃべりのプロと異なるのはそうした言葉について詳しく調べ、関係者や専門家への取材まで敢行することである。

「私には流そうと思えば流せるところに立ち入って、『それって本当はどうなのかな』と考える癖があるんです」

本書にはそうして集められた数々の日本語が俎上に載せられている。しかし間違った表現を糾弾する言葉狩りの本かというとそうではなく、梶原氏が引っかかった言葉について、時代背景や使用している人の事情などさまざまな視点から考察が行われ、ユーモラスに記述されている。

「『ら抜き言葉』が増えてきたように、言葉の世界には『言葉の揺れ』があります。揺れを認めないコンサバティブな立場もありますが、私は容認するリベラルな立場です。適切・不適切は『世間ではこう使われているが、こちらのほうがよいのでは』という視点から分けました。舛添さんの『違法ではないが不適切』に近いですね(笑)」

取り上げられている言葉は「元気をもらう」「奥が深いですねえ」「こだわりの○○」など、紋切り型の常套句となっているものが多い。

「紋切り型にも効用はあります。雑談でいきなり深みにはまるような言葉を使えばうっとうしい人だと思われるでしょう。だから一概に否定はしませんが、プアーな言葉を使っているとプアーな思考しか生まれません。『元気をもらいました』という表現はとても便利ですが、人間の感情を表現するのにそんな安易な言葉を使っていたら思考が深まらず、相手と建設的なやり取りができないと思うのです」

安易に「深いですねえ」といった紋切り型を使うと「この人、本当はわかっていないな」と相手に思われて、説得力を失う恐れもある。

紋切り型ではない適切な日本語を使えるようになるには、どうすればよいのか。

「『この場で一番ふさわしい言葉は何か』と少し考えるだけで大きく変わってくる気がします。間が空いたっていいのです。自分が使っている語彙を疑うことは思考を広げ、紋切り型でやり過ごしている人より発見の多い人生になると思います」