海外で成功する中韓、現地支社もない日本

「文化の壁」よりも深刻なのは「メディアの壁」だ。これは、流通の問題と、国際政治の問題に集約される。

流通とは、映画業界では配給と呼ばれる。具体的には、映画館で映画を公開するための営業および宣伝の壁だ。ハリウッドは、たとえばワーナー ブラザースやディズニーに日本支社があるように、世界各国に拠点を持っている。また、韓国のCJエンターテインメントも日本支社を持ち、独自で配給している。

しかし日本には、海外で配給も行う支社を持つ映画会社はない。日本最大規模の映画会社である東宝ですら、LAと香港に事業所を持っているだけだ。これでは安定的な海外展開は望めない。出版業界に目を向ければ、10年以上前に小学館と集英社は共同で北米展開をするためのビズメディア社を設立したが、こうした努力が見られない。

また世界の映画状況は、20年前とは大きく姿を変えている。とくに成長が著しいのは、中国と韓国だ。15年の中国の年間総興行収入は約441億元(約8569億円)、韓国は約1兆7155億ウォン(約1837億円)だ。日本が約2171億円であることを踏まえると、その規模がいかに大きいかよく分かるだろう。

日本はこのふたつの隣国への進出において、大きく後れを取っている。日本映画が、両国で公開されていないわけではない。たとえば昨年中国で公開された『STAND BY ME ドラえもん』は、中国・香港で興行収入9297万ドル(約114億円)の大ヒットとなった。

しかし、言論統制が敷かれている中国では、映画を自由に公開できるわけではない。現在の中国は、外国映画の公開本数を制限している。こうした中国政府に対し、アメリカも外交交渉を行ってきた。12年にジョー・バイデン副大統領が習近平副主席(当時)と会談し、輸入枠を20本から34本にまで拡大させた。韓国も14年に中国と政府間で映画共同製作協定を結んだ。これにより、中韓合作映画が中国映画として扱われ、輸入制限を受けなくなった。これによって、15年に公開されてスマッシュヒットした『20歳よ、もう一度』のように、韓国の映画会社が出資した作品も目立っている。

日本映画は、韓国市場への進出も上手くいっていない。昨年、韓国で公開された日本映画の総興行収入は、全体の1.8%の約306億ウォン(約33億円)にしか過ぎない。アニメやヒット作も公開されてはいるが、その規模は小さく、一部のマニア向けのレベルに留まっている。

東アジアにおいては、「文化の壁」は欧米よりも低い。テレビを通じた日本文化への親しみもあるし、そもそも文化的な近接性も高い。しかし、映画においてはこの「メディアの壁」がそびえ立ったままだ。

『君の名は。』は「文化の壁」を簡単に超えられる作品の力がある。ただし、これまでのような配給体制である以上、大ヒットは難しいだろう。

日本の映画マーケットは、今後生じる急激な人口減によって小さくなっていく。残された道は、積極的に海外展開する以外にはない。しかし、映画業界も政府もあまりそこに手を打てていないのが実情だ。産官が連携して「メディアの壁」をいかに下げるか――それが急務である。

※1:各データは、『Box Office Mojo』(http://www.boxofficemojo.com/)を参照。
※2:Q&A: Genki Kawamura "The Hollywood Reporter!" 2010年10月26日(http://www.hollywoodreporter.com/news/qa-genki-kawamura-32504)。