人材を受け止める町になるには「階段」が大切

【田原】さっき回遊魚という話が出たけど、井上さんは「回遊人材を受け止める町にしよう」とおっしゃっています。これはどういう意味ですか。

【井上】これまで地方の移住促進政策は、ゼロか100か、つまり定住するかしないかを迫るところがありました。たとえば移住するなら消防団に入りなさい、自治会に入って草刈りしなさい、それができないなら住めないよ、という感じでハードルが高かったのです。これではなかなか人が寄ってきません。本当はゼロか100かではなく、途中に階段を設け、一時的に長島町を舞台に活躍してもらい、また別のところにステップアップするような関わり方があってもいい。ブリがいくつもの海を回遊するのと同じです。

【田原】階段ですか。その発想は、どこから来たのですか。

【井上】階段の重要性は、学生のころ路上生活の方の炊き出しをしていたときに感じました。路上生活をしている人はもともと真面目な人が多いのですが、住所や携帯がないのでなかなか仕事を見つけられません。でも、職業訓練をしたり、面接のときに服や携帯を貸してあげるという小さな階段をつくれば、あとは自分で登っていけます。地方への移住も同じで、ハードルが高いなら、小さな階段を設けたらいいんじゃないかと。

【田原】具体的にはどのような階段をつくっているのですか。

【井上】いろいろありますよ。いま大学生による地域活性化プランのコンテストがよく開かれていますが、長島町は、できるまで帰れませんという形にしました。プランを出すのは簡単ですが、本当に大変なのはまわりの人を巻き込んで実現すること。それを大学生に経験してもらいたくて、行きの飛行機代は出すけど途中でギブアップしたら歩いて帰ってください、実現したらみんなで拍手して送ってあげますという条件にしました。そうすると、おそらく1~2カ月は長島町で暮らすことになるし、うまくいけば住み続けるかもしれない。まさに階段です。

東大生が長島町へ。長島町のブリが東大の学園祭へ

【田原】「獅子島の子落とし塾」という取り組みがありますね。これも階段のひとつですか。

【井上】獅子島は人口約700人の離島です。ここも高校はないので、子どもたちには身近な先輩がいません。その結果、勉強のやり方が分からなかったり、将来のロールモデルが少ないという問題が起きています。そこで東大や九大の学生を連れてきて、中学生向けに2日間の塾をやってもらいます。年齢が少し上の学生と触れ合うことで、勉強を教えてもらうだけでなく、同級生や大人に話しにくいことを相談してもらういい機会になればと思っています。

【田原】大学生はどうやって集めたのですか。

【井上】僕がもともと知っている学生たちに、「おいしい魚食べない?」と声をかけました。最初は魚目当てかもしれませんが、漁師さんの家に泊めてもらっているうちに仲良くなって、また新しい動きがいろいろと生まれてきました。狙い通りです。

【田原】具体的には、どんな動きが生まれてきたのですか。

【井上】今年のゴールデンウィークには大学生が1週間、長島の公民館を借りて地元の小中学生に勉強を教えていました。また、こんどは長島の良さを東京にで伝えようと、学生たちがブリを仕入れて東大の学園祭でブリ丼を販売しました。このように最初は小さな階段から人や食材を好きになってもらい、そこからつながりが広がっていければいいんじゃないかと。

【田原】学生にとって、長島にはどういう魅力があるんでしょうね。

【井上】いま長島には、「東京でやるより長島でやったほうが面白いだろう」と言って、さまざまな企業やNPOの方が企画を持ち込んでくれます。そこに学生も出入りするので、東京にいるより深い出会いがあったりします。また、純粋に長島の人に本当に家族のようにかわいがってもらって、第2の故郷のようになった学生もいます。長島に関わる動機は人それぞれですが、なんとなく、人は人に集まるのだなと感じています。