楽天出身の起業家や、DeNAを辞めた人材が長島町にやってきた

【田原】長島町にはボランティアの学生だけでなく、社会人経験のある人も移住してきています。たとえばどういう方がいるのですか。

【井上】いま全国の自治体が「地域おこし協力隊」を募集していますが、長島町で採用した1人が土井隆くんです。もともと楽天で担当する商品の販売実績日本一になって、ネット事業で独立した起業家です。いまは漁協で一緒に株式会社をつくってECサイトを立ち上げたり、カドカワとインターネット高校の地域拠点であるNセンターを形にしてもらっています。物理的な距離を埋めることができるという意味でネットと田舎は相性がいいのですが、これまで長島町にはネットのプロがいなかった。土井君が来て、とても助かっています。

【田原】土井さんのような人が何人くらいいらっしゃるのですか。

【井上】ビズリーチと提携して「スタンバイ」という人材サービスで募集したところ、30件以上の応募がありました。実際に地域おこし協力隊としてきてもらうのは、今年7月の時点で8人になる予定です。なかには日立関連の元部長さんや、DeNAをやめてきた27歳の若手もいます。

【田原】へえ。日立の元部長さんは、どうして長島に?

【井上】もともと隣の市の出身で、お兄さんに最近長島町が面白いよと話を聞いていたそうです。それと、いま長島ではバイオマスの施設をつくろうとしています。自分の持っている技術や知識をそこに活かそうと思って応募してくれたと聞いています。

【田原】バイオマス?

【井上】長島には大きな養豚場があり、そこの豚糞からメタンガスをつくろうとしています。メタンガスを燃やせば熱や電気になります。ガスを燃やした熱はヒラメの養殖に利用できるし、発酵させた後の豚糞は匂いもなくて、畑に肥料として撒けます。いま実現に向けていろいろとシミュレーションを行っている段階です。

【田原】DeNAの人は?

【井上】僕の高校、大学の後輩なのですが、僕がブログで書いているのを見て、長島町にふらっとやってきました。会うのは5年ぶりくらいだったかな。自分のやりたいことが会社の中でできないと悩んでいたのですが、長島町ならできるかもしれないということで、この5月からこっちに来ています。

井上さんがいなくなったあと、長島町はどうなる?

【田原】人が集まってきてこれから面白いことが続々と始まるのが理想ですが、井上さんはいずれ総務省に帰らないといけない。任期はいつまで?

【井上】2年間です。だから今年度いっぱいです。

【田原】問題は井上さんがいなくなった後。長島町はどうなりますか。

【井上】ぶり奨学金プログラムのようにずっと続く仕組みをつくってきたので、そこは問題ないと思っています。また、僕がいなくても、地元の方が面白いことをやりたいと動いてくれているし、外からも人がやってきています。さらにいうと、僕自身、任期が切れて「ハイ、終わり」にはしたくないのです。やりっぱなしではダメだし、自分自身の成長にもつながらない。一度関わったからには、プライベートで何でもいいからちょくちょく訪れて、関わり続けようと思っています。

【田原】井上さんが戻った後、総務省から第2の井上さんが派遣されてきたりはしないのですか。

【井上】地方創生人材支援制度は全国からいろいろな市町村が手を挙げているので、制度上は難しいです。何らかの形で後継者を見つけて、育てていければいいなと思っています。