ブリ養殖世界一の町が過疎化した理由

【田原】ところで、長島町の過疎化の原因は何ですか。

【井上】大きいのは2007年に町内から高校がなくなってしまったことですね。高校に進学する子は阿久根市や出水市の高校に通いますが、バスで片道1時間以上かかるのでけっこう大変。なかには寮に入ったり、家族ごと引っ越すご家庭もいます。そうすると若い人が出て行ったまま帰ってこないという問題があるし、親のほうも進学費用がかさむので3人目、4人目はやめようかという話になってしまう。

【田原】難問ですね。どうやって解決しますか。

【井上】今年の4月から、「ぶり奨学プログラム」を始めました。これは町外に奨学金で進学しても、卒業後10年以内に町に戻ってくれば元金を町が創った基金から補てんするという画期的なモデルです。長島町は世界一のブリ養殖の町で、ブリはモジャコ、イナダ、ハマチ、そしてブリと成長して戻ってくる回遊魚。同じように大きくなって長島町に戻ってきてね、という願いを込めて、この名前にしました。

【田原】全額返さなくていいのはすごい。何人が利用しているのですか。

【井上】50人以上から申し込みがありました。

【田原】過疎の町でそれは大きい。でも、町にそんなお金はあるのですか。

【井上】地元の鹿児島相互信用金庫さんと提携して、超低金利の奨学ローンをつくってもらいました。それともう1つ、町のみんなで支えようということで、漁協や養豚場からもお金を出してもらっています。漁協からはブリが1本売れると1円で、今年は209万円、養豚場からは1頭につき30円で、年間約200万円の寄付をいただいています。じつは全国には戻ってきたら返済不要の奨学金がすでにあるのですが、お金がかかるので続かなくなったり、モラルハザードの問題が起きてやめようかという話になることが多い。その点、長島町のプログラムは町のみんなで支えるので、続く仕組みになっています。

【田原】井上さんが提案されて、長島町で反対はなかったのですか。

【井上】ありませんでした。保護者はもちろん助かります。それに人口が減るのは後継者問題やお客不足に悩む事業者にとっても厄介な問題なので、みんな賛成してくれました。

井上氏が創刊した、食べ物付き定期購読誌『食べる通信』(季刊)。JR九州とのタイアップも進める。