生き残るカギはイノベーション

――14年は日本では「プロ経営者」が話題をさらった1年だった。4月、日本コカ・コーラの会長だった魚谷雅彦が外部企業出身者として初めて資生堂の社長に就任。6月にはアップルコンピュータや日本マクドナルドで辣腕を振るった原田泳幸がベネッセホールディングスの代表取締役会長兼社長に(雑誌掲載当時)。さらに、日本における同族経営企業の代表格であったサントリーも、10月にローソン会長兼社長である新浪剛史が代表取締役社長に就任した。
これからの企業に必要とされるのは生え抜きの社長ではなく、プロ経営者なのだろうか。そしてこれから生き残る企業とは。

大企業が経営難に直面したとき、すでに別の会社で成功した誰かを引き抜いて、以前の栄光を取り戻そうと考えることは簡単なことだ。例えばIBMは1980年代にIT業界の巨人として世界を席巻した。しかし90年代に入ると彼らの技術は急速に時代遅れとなり、約半数の社員をリストラするなど苦境に立たされた。

左は魚谷雅彦氏。日本コカ・コーラ会長を経て資生堂社長に就任。中央は原田泳幸氏。日本マクドナルドCEOを経てベネッセホールディングス会長兼社長に就任(雑誌掲載当時)。新浪剛史氏。右はローソン会長兼社長を経てサントリー社長に就任。

そこで迎え入れられたのがナビスコのルイス・ガースナー。彼の活躍によって息を吹き返したIBMだが、グーグルやフェイスブックの出現により、楽観視できない状況は続いている。鳴り物入りで迎えた経営者が去ったあと再び業績が悪化するのなら、その引き抜きはどれほどの意味があるだろうか。

フォーチュン500(※2)に名を連ねる米国企業に雇用されているアメリカ人は全国民のうちたったの6%。残りの94%は中小企業に勤めている。

(※2)フォーチュン500:米フォーチュン誌が年1回編集・発行するもので、全米上位500社が総収入に基づきランキングされる。

日本においても状況は同じで、誰しもが名前を知っている大企業はほんの一握りだ。日本の長期的な成長を考えたとき、その一握りの会社に依存するという考え方は正しいだろうか。私は京都に何世代にもわたって世界最高クラスの染料を作っている小さな会社を知っている。社員が100人であっても、10人であっても、市場で大きな存在感を示せる会社は存在する。彼らにはMBAを取得した名の知れた経営者はいない。彼らを支えるのは自前のイノベーションで市場にインパクトを与えようという精神だ。

大企業のありようを見ていて残念に思うのは、スタートの時点ではちっぽけだった企業を大企業たらしめた原動力、つまり革新性を失っていることだ。ほとんどの場合、大企業は技術革新を生み出すような想像力ある情熱家たちを許容できない。というのも、革新はビジネスの本流から遠く離れたところで発生するからであり、そういった技術は発生の初期にはあまり有望には思えず、そんなものに偏執する人々は組織の論理からすれば非合理な存在として抹消されてしまうのだ。下手をするとクビになることを知っているから、大企業の若いエンジニアや商品開発部隊を放っておくと、失敗のリスクを恐れ、陳腐な製品しか生み出すことができなくなる。危険を承知で挑戦することが当たり前であり、挑戦しないことが企業の業績を危うくするという組織文化を醸成することが重要なのだ。(文中敬称略)

トム・ピーターズ
1942年、米国生まれ。コーネル大学土木工学学士号、修士号取得。スタンフォード大学経営学修士号、博士号取得。兵役、米国防総省を経て、74~81年、マッキンゼー・アンド・カンパニー勤務。国際経営学会、世界生産性協会、国際顧客サービス協会、品質・関与協会会員。
 
清水康一朗
1998年、慶應義塾大学卒業。デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)等を経てラーニングエッジ代表取締役社長。アンソニー・ロビンズの日本唯一のイベントパートナー。
(唐仁原俊博=構成 本野克佳(トム・ピーターズ氏)、門間新弥(新浪氏、原田氏)=撮影 時事通信フォト(魚谷氏)=写真)
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