必要とされる人材になるのは簡単だ

――金銭、商品、サービス、人材は流動性を増し、グローバル化・ボーダーレス化はますます進んでいる。日本においても価格競争力を失った大企業が製造拠点を国外に移し、国内産業の空洞化が進んだ。交渉中のTPPが実現すれば、さらにモノやサービスの移動を促進させるだろう。
あるいは産業技術や人工知能の発展。これまでもそうであったように、人間にしかできなかった仕事がロボットに奪われることで、労働者の競争は激化するのではないか。
トマ・ピケティの『21世紀の資本』(※1)が経済書では近年異例のベストセラーとなっている。本国フランス、米国、そして日本で、格差の拡大に敏感にならざるをえない状況がその背後にあるのではないだろうか。

(※1)『21世紀の資本』:フランスの経済学者トマ・ピケティが2013年にフランスで刊行。
資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、富は資本家に集中し、資本主義は格差を生み出すという。

これまでにない社会や経済が到来しようとする中で、必要とされる人材とはどのようなものなのだろうか。

2014年11月、イギリスのデイリー・テレグラフ紙に驚くべきデータが掲載された。世界最大の会計事務所である米デロイトとオックスフォード大学による共同研究によれば、今後20年の間に、イギリスの労働者のうち、実に35%にあたる1080万人がロボットや人工知能に仕事を取って代わられ、職を失う可能性があるということだった(図を参照)。

このようなショッキングな予測が行われるのは今に始まったことではない。2000年には私自身、タイム誌に次の10~15年でホワイトカラーの仕事のうち90%はなくなるか、かたちを変えるだろうということを書いた。未来に関する大胆な予測が話題になるたびに、自分は生き残れるだろうかと戦々恐々とする人は多いだろう。新しい技術が生み出され、世界はどんどん変化していく。予言のうち、いくつかははずれるだろうが、おおよそ予言通りに変化していくことは間違いない。そんな中にあっても自分に市場価値を見いだされ、必要とされることができるかどうかということは、政府の施策や、有能な上司がいるかどうかということには左右されない。

私の回答はシンプルだ。あなたの価値は常に新しいことを学び続け、今まで以上に広範囲の人々とともに仕事をし、そして起業家としての精神を持つことができるかどうかにかかっている。起業家精神とは資金を集め、会社を立ち上げることのみを指すのではなく、よりよい仕事をしたい、新しいことを学びたい、自分が所属するコミュニティに対して価値を生み出していきたいと考える本能のようなものだ。

私はかつて『The Brand You 50』(邦題『トム・ピーターズのサラリーマン大逆襲作戦』)において、自分の腕を磨き、革命の時代を生き抜かねばならないと説いた。私にとって生き抜くという言葉は、他人を押しのけて自分だけが上にいくことを意味しない。ある人物の価値は、一人で何ができるかということではなく、一緒にプロジェクトを進めていく仲間たち、そして仲間とともにつくり上げた成果物によって評価されるからだ。

先の共同研究の報告書では、高い技能を必要としない職種が最も奪われる可能性が高いと分析している。それは製造業だけでなく、通り一遍のマニュアルで処理しているようなカスタマーサポートなども該当する。

IBMの伝説的経営者トム・ワトソンは「エクセレントな人間になるために、どれだけ時間がかかるか」という質問に対して「1分だ」と答えた。「今この瞬間から『エクセレントでない』ことは絶対にしないと自分自身に誓い、上司や周囲からどんなに圧力がかかっても、決して妥協しなければエクセレントになれる」。これからの時代、私たちはよりエクセレントであることを求められるのだ。