橋下徹市長は捨て身の政治で実績を上げた

【塩田】大阪の橋下徹市長についてお尋ねします。維新の党を離党して、大阪組を中心に「おおさか維新の会」を結成しました。一方で、橋下市長は安倍首相や菅官房長官との「距離の近さ」が注目を集めていますが、橋下氏との付き合いはいつからですか。

【菅】私は横浜市議をやっていましたから、よく横浜と大阪を比較しましたが、大阪って、公務員天国で目茶苦茶なところだったんです。私が総務副大臣のとき、横浜は大阪よりも人口が100万人多いのに、市の職員は大阪が2万人多かった。その上、現業職で年収が1000万円を超えた人が800人以上いたんですよ。労使馴れ合いでした。それで総務副大臣のとき、こんなところに地方交付税交付金を出すのはやめるべきと言ったぐらいです。

私が自民党の選対副委員長のとき、そういう大阪をぶちこわそうということで、大阪選出の国会議員や市会議員が大阪市長選挙に橋下さんを出したいと言って連れてきたんです。大阪府知事になる前で、最初は市長選挙でした。会って口説いてくれと言われて、私は口説きました。ですが、彼は芸能プロダクションに入っていたから駄目で断わった。200%出ないとか言ったのはそのときの選挙です。その後、逆に府知事に出馬したいと党本部に来たんです。

【塩田】大阪の府知事と市長を歴任した橋下氏の仕事ぶりをどう評価していますか。

【菅】改革意欲にものすごく富んでいる。捨て身で政治をやって実績を上げていますね。約束したことをやった。そこを私は高く評価しています。橋下さんが登場した後、横浜と大阪の職員の人数はほぼ一緒になりました。徹底して改革を進めたんです。府会議員の定数も確か2割削減した。給与も同様に減らした。

【塩田】安倍政権の側は、橋下さんがいたころの維新をパートナーと見ていたのですか。

【菅】パートナーというよりも、改革の方向が一緒でした。私たちの政権は、政策に賛成してくれるところとはきちんと付き合い、駄目なところは仕方ないというのが基本姿勢です。私たちはそういう野党がほしい。野党とのそんな関係は健全なことだと思います。

【塩田】橋下氏は政治家引退を表明しています。

【菅】本人は辞めるのでしょう。疲れているのは間違いないと思う。約8年間、ずっと走り続けてきたのですから。ですが、彼のことですから、いろいろ考えていると思います。

【塩田】来年の夏に参院選があります。その後に安倍政権は首相が宿願とする憲法改正に取り組むことになりますか。

【菅】私も総理も会見で言っているのは、国民の議論を深めることです。まずそこから始めたいと思います。憲法改正は立党以来の党是で、どの選挙でも、やると言っていますけど、自民党だけでやれるとは思っていません。国民世論を深めていかなければ。そう簡単にできないと思います。

【塩田】消費税率の10%への再引き上げは去年暮れに一度、延期しましたが、2017年4月の実施は確定的ですか。

【菅】私たちは約束しています。国際信用とか、いろいろな問題がありますから、それができるような経済環境をつくっていきたい。

【塩田】1年後にもう一度、実施の是非を政治的に判断することになりますか。

【菅】総理もよく言っていますが、リーマン・ショックのようなことがない限り、それはないと思っています。

【塩田】総理の健康問題が話題となっていますが、体調はいかがですか。

【菅】いろいろと言われていますが、まったく問題ないですね。今までと一緒です。

【塩田】菅さんの政治家としての持ち味は「柔よく剛を制す」で、「柔」の腕前と見る人が多いようですが、最近は「剛」が目立ち、強気が顔を出す場面が多いのでは。

【菅】「剛」が必要なときは、徹底してやらなければ駄目だと思っています。必要なときと、そうでないときとを分けてやるべきだと思います。

菅義偉(すが・よしひで)
衆議院議員・内閣官房長官
1948年12月、秋田県雄勝郡秋ノ宮村(現湯沢市)生まれ(現在、66歳)。農家の長男に生まれ、秋田県立湯沢高校卒業後、上京して町工場で働いた後、法政大学法学部卒。会社員を経て、衆議院議員の小此木彦三郎元通産相の秘書を11年務めた。87年に横浜市議に初当選(計2期)。96年の総選挙で神奈川2区から自民党公認で初当選(以後、連続7回当選)。梶山静六元官房長官を師と仰ぎ、行動を共にした。2006年の総裁選で安倍晋三現首相の擁立の原動力となる。06年に第1次安倍内閣の総務相、07年に自民党選対副委員長、09年に選対委員長代理、12年に幹事長代行。その後、第2次安倍内閣で官房長官に就任(在任は1000日を超え、現在歴代3位)。著書は『政治家の覚悟 官僚を動かせ』。人生で一番嬉しかったことはと聞くと、「政治家の秘書になったとき」という答えが返ってきた。暇な時間があればやりたいことは「渓流釣り」だという。
(尾崎三朗=撮影)
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