2015年10月29日(木)

「VWショック」は日本勢に追い風となるか

PRESIDENT 2015年11月16日号

著者
中西 孝樹 なかにし・たかき
ナカニシ自動車産業リサーチ 代表兼アナリスト

中西 孝樹1986年オレゴン大学ビジネス学部卒業。94年より一貫して自動車産業調査に従事。UBS証券、J.P.モルガン証券などを経て、2013年ナカニシ自動車産業リサーチを創業、独立。『トヨタ対VW』(日本経済新聞出版社)など著書多数。

アナリスト 中西孝樹=答える人
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ドイツ政府は絶対にVWを見捨てない

独フォルクスワーゲン(VW)グループの排ガス不正の影響が広がっている。この問題は世界中で報道されているが、とりわけ英米メディアの論調が厳しいようだ。国内での報道では、ドイツ経済の失速懸念のほか、国内自動車産業への追い風を指摘する声も聞かれる。しかし、問題の本質を突き詰めれば、そんな楽観論は考えられないはずだ。

事の発端は、ディーゼル乗用車の排ガス数値において、試験数値と実走行時との間に大きな乖離があることに、欧州委員会が関心を持ったことだった。欧州委員会は非営利団体の「国際清浄交通委員会(ICCT)」に調査を依頼。調査を受託したウエストバージニア大学の研究結果が、VWの不正を暴く契機となった。

VWが不正を認めた「EA189タイプ」のエンジンには、「ディフィート・デバイス」と呼ばれる無効化機能ソフトが組み込まれていた。なぜVWは不正に手を染めたのか。本質的な理由は現時点では明らかにはされていないが、周囲の状況からは以下の3点が疑われる。

第1に、技術的な問題だ。米国の排ガス規制は、世界に先駆けて2004年から「Tier2 Bin5」に移行し、NOx規制値は、その後欧州で実施された「Euro5規制」の約5倍と厳しいものだった。このNOx規制値をクリアし、かつ高い走行性能と低燃費を両立することは、当時の技術では相当困難だったと考えられる。

第2に、世界首位となる成長戦略を策定し、米国での成長を急いだことだ。その実現のために「クリーンディーゼル」での差別化を図った。

第3は、長期にわたるワンマン経営の下で、結果主義に対する厳しい姿勢が影響したことだ。企業統治が弱く、組織が複雑になるあまりに適切な管理を逸した恐れがある。

VWの業績と財務体質の深刻な悪化はまぬがれそうもない(※1)。ブランド価値の毀損、グローバル販売台数の悪化、信用悪化に伴う資金調達コストの上昇、民事制裁金や集団訴訟などへ巨額な資金が必要となるだろう。キャッシュフローが窮する場合、ドイツ政府が公的支援を実施する可能性も否定できない。

しかし、過去に大きな問題を起こしたGMやトヨタが復活できたように、VWの再生も可能であると考える。国家の経済と雇用を担う自動車産業において、自国の代表企業を傾かせるわけにはいかないのである。ドイツは国家の威信をかけて、VWの再起を図ってくるだろう。

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