傾いているのは4棟のうち1棟だけ

横浜市都築区のマンション「パークシティLaLa横浜」に傾きが見つかった問題が波紋を広げています。住民の立場から考えると、当面の焦点は「建て替えか、修繕か、買い戻しか」という点になるでしょう。

販売元である三井不動産レジデンシャルが今年10月、住民に提示した文書によると、傾いた1棟を含む全4棟の建て替えを前提とし、転出を希望する場合には新築時の分譲想定価格で住戸を買い取るとしています。また建て替え工事中の引っ越し代や家賃なども負担し、こうした実費とは別に、一連の問題についての慰謝料も支払うとしています。仮に解体と建て替えが行われた場合、販売元の負担額は300億円程度になると推計されます。

しかし、補償の前提である「全棟建て替え」の実現はかなり難しいでしょう。なぜなら「全棟建て替え」には、全区分所有者および議決権の「5分の4以上」の賛成が必要になるからです。このマンションは間取りなどから子供のいる家族が多く、小学校の「学区」などを考えて購入した人も少なくないようです。傾いているのは全4棟のうち1棟だけ。「全棟建て替え」で住民の合意を取り付けるのは容易ではありません。

こうした施工ミスによる建て替えには前例があります。たとえば2003年に分譲された横浜市西区のマンション「パークスクエア三ツ沢公園」は、2014年になって全6棟のうち2棟で問題が見つかりました。傾いている1棟では全世帯が転居していますが、もう1棟は管理組合と販売元の住友不動産などが是正計画をまとめている段階です。住友不動産は全住民に物件の買い取りや最大300万円の慰謝料の支払いを申し出ていますが、住民によって対応はわかれているようです。

経済的な「損得」だけを考えれば、マンションの住民にとっては「修繕で住み続ける」よりも「建て替え」のほうがメリットは大きいでしょう。修繕で済ませた場合、中古市場で「風評被害」にさらされる恐れがあります。通常の相場では売買されず、どうしても割安な価格になってしまいます。ただし、「風評被害」には数年で落ち着くものも少なくありません。たとえば千葉県浦安市の高層マンションは、東日本大震災での液状化現象で上下水道などに大きな被害を受けましたが、現在ではその影響はほとんど見られません。

一方、「建て替え」が実現すれば、傾斜に対する不安は完全に払拭されるうえ、築年数も新しくなりますから、中古市場での評価額は現在よりも確実に高くなります。日常生活や個々の事情を無視して資産性だけを考えれば、建て替えたほうが得であることは明白です。