むしろ価値を上げた「財閥系」のブランド

「LaLa横浜」のケースでは新築時の分譲想定価格での「買い取り」も提案されています。物件を販売した2006年当時と比べると、土地価格や建築費の上昇などでマンション市場は2割ほど上昇しています。買い取りに応じれば、経済的には大きなメリットがあるはずです。

こうした手厚い補償は、「財閥系」と呼ばれる大手不動産会社だからできた提案だと思います。分譲マンションについては、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」という法律で消費者は保護されています(※1)が、これは建物に何か大きな不具合が生じた場合の修復を義務付けるだけで、建て替えや買い取りを求めるものではありません。三井不動産レジデンシャルは、手厚い補償を打ち出すことで、「財閥系」のブランドを守ったともいえるでしょう。

今回の施工不良における最大の問題は「杭打ちデータの改竄(かいざん」です。傾斜にばかり注目が集まっていますが、傾斜そのものは大きな問題となるものではありません。

品確法が規定する「住宅紛争処理の参考となるべき技術基準」によると、建物の傾斜の許容範囲は、新築の場合は「1000分の3未満」、中古の場合は「1000分の6未満」とされています。新築では10メートルの長さで3センチ、中古では6センチの傾斜です。敏感な人でなければ、傾斜に気付くことは難しいでしょう。正確な数字はわかりませんが、各種報道によれば「LaLa横浜」の傾斜は2センチ程度。傾斜そのものは許容範囲内にあると考えられます。

「傾きマンション」建設の流れ

最大の問題点である「データの改竄」では、杭の施工記録が支持層に届いている杭のデータと差し替えられていました。少なくとも8本の杭の長さが不十分だったということですが、真相の究明は非常に難しい。販売元が「全棟建て替え」を提案した背景には、現地調査と修繕の難しさもあると考えられます。

マンションを建設する際、地中を掘り進めて支持層までの長さを調べる「ボーリング調査」を行います。「LaLa横浜」では473本の杭が打ち込まれましたが、通常は敷地全体では10カ所程度のボーリング調査で支持層までの深さを推計します。地面は平坦でも、地下の支持層には凹凸がある可能性があります。このため推計だけでなく、実際には支持層まで到達したかを振動などで確認しながら、杭を打ち込みます。このケースでは打ち込み時の確認などが不十分だったとみられています。

現在、杭の上には建物が建っています。建物の真下の杭については、すぐそばでのボーリング調査は困難です。またその場で杭を打ち直すこともできません。建物に居住したまま、つまり転居を伴わない形での修繕工事は非常に難しいでしょう。