知らぬ間に“ルール”が変わってしまい、愚直に磨いてきた技が通用しなくなっていた――そんな苦い経験を持つ経営者には、本書の登場は朗報かもしれない。

内田和成(うちだ・かずなり)
1974年、東京大学工学部卒業。慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空を経て85年ボストンコンサルティンググループ入社。2000年から04年まで日本代表。06年より早稲田大学ビジネススクール教授。著書に『仮説思考』『論点思考』ほか。

かつて経済紙に「生まれてから一度も警察の厄介になったことのない、既存のパラダイム遵守に長けた奴に、改革などできるわけがない」という趣旨の一文を掲載し、「“向こう傷”を持つ企業トップの方々から、同意をたくさん頂きましたよ」と笑う著者は、2009年に『異業種競争戦略』を上梓している。

「従来の競争戦略論では説明できない、K-1やPRIDEのような氏素性の違う企業どうしの戦いの実態をお伝えしました」

ルールが変わる。相手も、土俵も変わる――当時にもまして目につくようになった現在の“異業種格闘技”の戦い方を記したのが本書だ。

ルールを破壊する戦い方を「相手の儲けの仕組みを無力化する」「顧客が気付いていない価値を具体化する」「新たな事業モデルの創造」「バリューチェーンを見直す」の4つに類型化。スマホゲーム、大和ハウス工業や俺のシリーズ等々、誰にも身近な事例をもとに各タイプの戦い方を追求する。加えて、そうした新興の「ゲーム・チェンジャー」を受けて立つ既存プレーヤー側の、“無視する”“逃げる”も含めた対抗策も網羅している(実は、読者のニーズが一番ありそうなのはここだろう)。

本書はいわばリファレンスブックだ、と著者はいう。

「新しいことを考えるときに、事例集として使っていただきたい。文中に登場した企業名を記憶しておけば、索引から事例を逆引きできます。同じ偶然のひらめきでも、事例を多く知ったうえであれこれ考えたものと、そうでないものとでは、どちらが成功する確率が高いかは自明でしょう」

長期低落傾向にある国内市場。かといって、安易な海外進出は怪我の元だ。

「花屋の青山フラワーマーケット、駐車場のパーク24などをみれば、国内の成熟・衰退業界でも、イノベーション次第でチャンスは十分あることがわかります。既存のパラダイムに捉われていないか? 思考停止していないか? もっと頭を使う余地はないか? と問い直してほしい」

そんな著者の強い思いを、平易な語り口から十分に感じ取ってほしい一冊である。

(的野弘路=撮影)
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