それぞれが自分で考えて動くことで会社は変わる

コーチングは2年間続いた。最初の1年は月に4回、うち3回は電話でのコーチング(約40分)、残り1回は対面コーチング(約1時間)を行い、2年目は月2回、ほとんどが電話でのコーチング(約40分)となった。

コーチの役割は「主体者の自発性を引き出すこと」にある。主体者の意欲を高め、持っている才能を目覚めさせる。主体者の視点を変え、リソースを探し、物事を具体化させ、問題を特定する。そのうえで、目標を設定し、自発的な行動へと移させるのである。

齋藤氏は原田氏に、「今日は何を行いましたか?」「何がうまくいきましたか?」と、日々のことを細かく聞き、「うまくやっていますね」「原田さんがいるからこそできたことですね」と、心意気、着眼点をひたすら褒めた。原田氏がつまずいたのは、人に頼むとか、ものを聞いてみるといったほんの小さなことだったと齋藤氏は言う。

本来の原田氏は褒められてパフォーマンスの上がる、明るいキャラクター。齋藤氏は、たとえひとつうまくいかなかったことがあっても、その問題にとらわれて元気を失ったりせず、先に進むよう、部下とどんどん会話をかわすようにと原田氏にメッセージを送り続けた。

「セッションの回数を経るうち、原田さんの口から部下の方たちのお名前が登場する頻度が増えていきました。『あの人たちは、こういう力を持っているから、こういうふうにしたらいい』というように。そして、いつしか彼女の主語が、IからWeに変わっていきました。『私たちはこう考えている』『私たちはこうしたい』と。自分の課題から、チームの課題へと変換できたことで、彼女のコーチングは成功すると確信しました」(齋藤氏)

自分自身をじっくり見つめ、価値や強みを探る「自分の棚卸し」をしたことで、部下のリソースにも自然と目が行くようになり、みんなの強みが活かせるビジョンを考えることができるようになった。権限委譲もスムーズに行えるようになり、業務目標もクリアして、コーチングは終了した。

原田氏は部下へのマネジメントに、自らが学んだコーチングスキルを活用したり、齋藤氏の言葉を思い出しながら日々仕事を進めているという。

「自分で導き出した目標に、人は真剣になれる。大きくジャンプする前に、いったん小さくしゃがむ、今の日産はそういう状態だと思います。日産には、『The power comes from inside』という言葉があるように、すべては1人ひとりでよくなる、つまり、それぞれが自分で考えて動くことで、それがひとつの大きな力になって会社が変わっていくと思うんです」