コーチングの考え方の根底には、「人は誰でも、課題解決のための答えとなる資源をもともと備えている」というものがある。資源とはその人の本質的価値を指し、人が成長し、大きな力を発揮する源泉となる。

「セッションを通じて原田さんの重んじる価値は、『顧客視点』『現場』『リアリティ』にあること、そして未来の夢に牽引されて仕事を行っていくタイプであることがわかりました。それが、原田さんが課題を解決する力となるものです。『自分の現場は、いまはこの職場なのだ』『私の目標は、日産のブランド価値を高め、顧客に満足していただくことだ』『そのためには、チームで力を合わせて業務を遂行していかなければならない』という解を、コーチングの中で原田さんは導き出しました。これをふまえた具体的な行動として、まずメンバーと向き合う時間をとると原田さんは決めました。毎週月曜日の午前中を部員とのミーティングに充てることにしたのです」

同時に、ビジョンやスキル、課題など、メンバー1人ひとりのデータベースを作り、これをもとにチームメンバーの育成戦略を立てた。自分自身のコミュニケーションスキルを上げる努力をしながら、チームと自分のビジョンメーキングを行っていった。

原田氏は、当時を振り返りこう話す。

「国内営業の部長で50名も部下を抱えているなんていったら、交渉力も決断力も超一流の凄腕を想像してしまう。

その像と自分とのギャップを一刻も早く埋めなくてはとあせっていました。それが、齋藤さんに、『原田さん、走るのをやめて、歩いて部下の方の顔を見ることから始めたらいかがですか?』と言われて肩の力がすっと抜けたのです。メンバーと向き合って、お互いを理解し合おう。偉い部長のイメージを徹底的に崩して、私にしかできない部長スタイルをつくっちゃえばいいと思えた。私にできない部分は、メンバーの力を借りていけばいいと考えられるようになりました」