鳥肌が立ったのは、あの女性のプレゼン

私がもっとも印象に残ったプレゼンは、世界最速の女性レーシングドライバーの井原慶子さん(世界で初めて、女性としてル・マンシリーズで総合優勝)によるものだった。

魂を揺さぶられた。レースのために、すべてを捧げてきた彼女の言葉の迫力に、男性も女性も関係なく強くひきつけられた。

井原さんは、学生時代、レーシング・クイーンのバイトをするうちに、カーレースのスピード感とテクニック、そして生死の境を猛スピードで駆け抜ける“人間の本気”に魅せられ、レーサーになることを決意したという。

この時、車についての知識はほぼ皆無。運転免許さえ持っていなかった。にもかかわらず井原さんは自分の直感を信じて、行動する。

日産ドライビングスクールのインストラクターなどを経て、1999年にレースデビュー。世界50カ国を転戦し、念願だったル・マン耐久レースのドライバーに選ばれた。病気で一度は引退を考えたが、再びル・マンという世界の檜舞台に立ち、しかも強者の男性ドライバーに競り勝ち、女性で初めて表彰台に上る快挙を果たした。

井原さんは常に淡々とした口調。それがかえって、内に秘める熱い情熱をより感じさせた。井原さんのまっすぐな眼差しと、夢をつかもうとする強い気持ちのこもった言葉にぐいぐい引き込まれたのだ。全員が話に集中しているのが伝わってきて、私は、鳥肌が立った。

筆者が最も感動したという、女性ドライバー・井原慶子さんのプレゼン。

オーディンエンスはこう思ったかもしれない。

かつての自分にも、井原さんのように夢を叶えようとする情熱があったな、と。そして仮に、今はそれを失いかけていても、今回の井原さんの話によって再び心に火がついた人も少なくないに違いない。それぞれがどこかに持っている大なり小なりの情熱を、思い出させてくれる、静かだけれど、心に深く刺さるスピーチだった。

プレゼンのあるべき姿だと思った。こんな気概を持って私も、人前で話をしてみたいと感じた。おそらく、テレビやyoutubeの動画を見ただけでは、ここまで心を動かされなかったのではないか。