日本のお家芸である「ものづくり」は人的資本の蓄積なしには成り立たない。さらなる高付加価値を目指すレンゴーの模索は続く。

日本のお家芸である「ものづくり」は人的資本の蓄積なしには成り立たない。さらなる高付加価値を目指すレンゴーの模索は続く。

 じつはレンゴーが世の風潮に逆らって正社員化に踏み切った背景として無視できないのが同社独自の経営哲学である「きんとま」哲学である。創業者の井上貞治郎が生み出したもので、「きん」はお金と、鉄のように固い意志を表し、「と」はandであり、「ま」は真心の真と間を意味する。つまり、金鉄の意志・金・真・間の4つを握ったら死んでも放すなという商売の鉄則だ。

社長の大坪はさらに間という字に「時」「空」「人」をつけて時間、空間、人間を加えて会社の原点とした。

「大切にしたいものとして時間、空間は物と物との間、つまりモノであり、それから人間。お金と強い意志を持って、時間管理を重視し、モノを大切にし、そしてなんといっても人間を大切にしながら真心をこめて事業経営をしなければならないというのが『きんとま』哲学の原点。これを社員に徹底して浸透させるようにしています」(大坪)

人間尊重主義はまさに同社の社是でもある。しかも単にお題目だけではない。価格戦略上も人件費を重視した経営を貫いている。大坪はこれをフルコスト主義と呼ぶ。売上高から変動費を差し引いた利益を限界利益と呼ぶが、従来の製造業の経営者は固定費をカバーするために生産量を上げて限界利益を追求しようと懸命に努力してきたと大坪は言う。しかし、成長が止まると限界利益では固定費をカバーできなくなる。その結果、発生するのがリストラに象徴される人件費の削減だ。

これに対して大坪の発想は固定費を再生産のための費用と考え、売価を決定するというものだ。

「限界利益という言葉を使うのは間違いだと思っています。固定費や租税コスト、資本再生の設備投資、社会還元など企業が生き残り、社会が生き残っていくための再生産可能な原資を全部費用として考えようというのが私の発想の原点であり、それを売価に反映させるというのがフルコスト主義です」(大坪)

(文中敬称略)

(小原孝博、熊谷武二=撮影)