どんなときに引き受けてもらえないのですか?

――自分より社歴が長い部下にお願いするときですね。あるいは他の部署の人に協力を頼むときも。

まず、部門の中の人間には、上司に頼まれた仕事を「イヤです」と言って選り好みする権限はないことを覚えておいてください。「イヤでもそれは君の仕事だ!」と言えば、それで終わりです。ラーメン屋にアルバイトで入って、「皿なんて洗いたくない」と言う人はクビになるでしょう。それと同じです。

――それはそうですけど……。仕事を頼んで嫌な顔をされると、その人には頼まず、「はい、はい」と聞いてくれそうな人に仕事を振ってしまうんですよね。

そういうことであれば、あなたは何のために上司をやっているのだという話です。「上司が部下1人使えなくてどうする!」という話です。

社歴や年齢は関係ないのです。歴史を振り返っても、ムガル帝国の第三代皇帝アクバルは、父親が急死したため、わずか13歳で即位しました。父親の時代から使えている大番頭、つまり「使いにくい人」が権力を振るって苦労するのですが、母親や乳母など女性軍団の力を借りて彼を失脚させ、権力を握ったのです。

――皇帝を引き合いに出されるなんて、何だか照れますね。

大事なのは年齢や社歴ではなく、人を動かす方法を知っているかどうかです。

――たしかに、上手に仕事を振る人もいますね。「振り上手」になるには、どうしたらよいでしょう。

方法は3つあります。1つ目は、「信頼関係」。部下が困っているときには全力で助けてあげる。上司部下に限らず、人間関係の基本は、ギブ・アンド・テークですから。

2つ目は「ロジック」。「大義」と言ってもいいですね。なぜその仕事が会社にとって必要なのか。例えばあなたが、大義のために体を張って頑張っていたら、頼まれなくても「自分も手伝おうか」という人が現れるかもしれません。

3つ目は「頼み方」。上下関係がない他部署の人に仕事を頼む場合はまず、その人の上司に「あの人のラインの仕事ではないのですが、あの人は凄い能力があるからちょっと手伝うよう声をかけてもらえませんか」とお願いしてみる。搦め手(相手の弱点)から攻めたほうがいい場合もあるということです。

――部下とギブ・アンド・テークするという発想はなかったですね。

人を動かすのは「知・情・意」、つまり「知性」「感情」「意志」だと言います。哲学者カントが提唱した言葉です。「知」はロジック、「情」は信頼関係、「意」が頼み方だと言っていいかと。人間の本質は大昔から変わらないということですね。

Answer:「知」「情」「意」。この3要素が、人を動かすコツです

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長兼CEO

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。