義足をデザインするにあたり意識しなければならないのが、人間の身体は決して直線ではなく、様々な曲線で覆われているということです。従来の義足では、直線的で異質なものが接続されることになるため、機能面と見た目の美しさを両立できるよう、身体の曲線のリズムに沿ったラインを与えています。具体的には、残された足の形状を参考にし、CTスキャンや三次元デジタイザで計測した3Dデータも分析しながら、設計を行っています。

走行用義足は、地面を蹴るカーボン製の「板バネ」、足の切断面を覆う「ソケット」、膝上切断者が使用する場合は膝の役割の代わりとなる「膝継手」の3つのパーツで主に構成されています。特に目を引くのは板バネです。最新のバイオメカニクスの研究によって、高速走行中の人のふくらはぎはほとんど動かずバネとして機能していることがわかっています。板バネはこの機能を代替し、立ったり座ったりの日常生活には適しませんが、走行だけに最適化したものになっているのです。

失われた身体を補うものとしては、本物そっくりに作ることを目標にしてしまいがちです。しかし、自然界が人体に採用したテクノロジーと私たちのテクノロジーが違いすぎるので、人体に似せることは機能的に合理的とは言えません。機能面と美しさのどちらをも満足できるものを作るのが、デザイナーの本来の仕事なのです。

日本代表選手のためにオーダーメードで開発された美しき義足

陸上競技用下腿義足「Rabbit」。プロジェクトの開始は2008年。Ver.4.0は13年に完成。当モデルを使用していたのは慶應義塾大学の高桑早生選手。高桑選手は、12年ロンドンパラリンピック女子100m、200mで7位を記録し、14年アジアパラリンピック女子100mで銅メダルを獲得した。

 
山中俊治(デザインエンジニア/東京大学教授)
1957年、愛媛県生まれ。東京大学工学部卒業後、日産自動車のデザイナーを経て独立。94年にリーディング・エッジ・デザイン設立。2008年、慶應義塾大学教授、13年より東京大学教授。毎日デザイン賞、グッドデザイン賞金賞、ニューヨーク近代美術館パーマネントコレクションなど受賞、選定多数。
(構成=矢倉比呂 撮影=後藤晃人(義足)、佐藤新也(山中教授))
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