田舎暮らしを“ゆるく”体験

若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)
人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任助教
福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」、週休4日で月収15万円の「ゆるい就職」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施し、さまざまな企業の人材・組織開発コンサルティングなども行う。
若新ワールド
http://wakashin.com/

近隣から転入してくる人たちにとっては、水や空気、景色などの自然環境はほとんど同じです。さらに、県内を縦断する国道沿いには、どのまちにも同じような店舗が「セット」で揃っている。それでもあえて鯖江に感じる“なんとなく“という魅力には、人との「関わり合い」やそれを通じた日々の体験などが大きく関係しているはずです。そして、それは人それぞれ感じ方が違って、言葉にするのが難しいもの。つまり、時間をかけて直接体感してもらうしかありません。

「農業をやる」「伝統工芸を学ぶ」といった分かりやすい理由があったほうが、地元の人たちも地域外の移住者を受け入れやすかったでしょう。しかし移住者からすれば、そのまちの伝統や文化、産業などがどんなものなのかなんて、実際に住んで体験してみなければわからないはずです。そして、それが自分に合うものなのかどうかも、事前に一人でじっくり考えてどうにかなるようなものではありません。

「ゆるい移住」プロジェクトは、移住期間中に何をするか、完全に参加者の自由です。趣味に没頭してもいいし、新しい活動や仕事を探してもいい。とりあえず無目的に住んでダラダラしてみる、というのもありです。田舎暮らしに興味を持った人たちが集まり、「なんとなくいい」と思うまちの魅力や人間関係に触れながら、色々と試行錯誤して「自分たちなりの田舎暮らし」をゆっくり模索してもらいたい。

そのために今回は、市が管理する住宅を最大半年間は家賃無料で使える、という制度にしてもらいました。移住先での家賃支払いがすぐに発生するとなると、そのための収入確保を先に考える必要があり、どうしても「仕事ありき」になってしまいます。もちろん仕事も大切ですが、そればかりに縛られると移住計画はどんどん窮屈になり、まちを楽しむ余裕もなくなってしまいます。それでは全く意味がありません。