賃金の上昇は景気回復より遅れて起こる

図1 景気回復と賃金上昇のタイムラグ

その一方で、「企業の収益力が上がっても労働者の賃金はあまり上がらず、実質所得がマイナスになっている」という批判がある。

これは『世界が日本経済をうらやむ日』共著者でエコノミストの安達誠司氏が強調した点だが、リフレによる景気回復は瞬時に始まるわけではなく、いくつかの現象が順を追って発生していく。

賃金の上昇は景気回復より遅れて起こる。景気回復の過程では、まず正社員の残業とパートなど非正規社員の勤務時間が増え、次に労働時間増加では対応できなくなって非正規雇用の雇用者数が増え、続いて正規雇用の数が増え、それによって労働市場が人手不足となったとき、初めて賃金の上昇が始まる(図1参照)。

これは経営者の立場で考えればわかるだろう。企業は「賃金を上げないと新規の従業員を雇えない」状態となって初めて、新卒者や中途入社社員に提示する給料を上げるのであり、「賃金を上げないと自社の従業員に逃げられてしまう」という状況になって、ようやく既存社員の給料を上げようという考えに至るのだ。