横や後ろから声をかけない

フランス作成のユマニチュードDVDに日本語字幕が付いた日本語版も販売されている。
「ユマニチュード ・優しさを伝えるケア技術」税別4000円 発行:IGM Japon 販売:デジタルセンセーション http://humanitude.care/dvd01

その後に登場するのがユマニチュードの技法を身に付けた女性インストラクターとジネスト氏です。はじめにインストラクターが病室のドアをノックし、おじいさんの反応があってから入室します。

インストラクターは笑顔で来訪を告げます。すると、あの敵意むき出しだったおじいさんは人が変わったように明るく反応し会話を交わします。そこへジネスト氏が入室。やはり笑顔で(通訳を介して)会話し、拘束帯を外していきます。そして、体に触れて支えながら、患者が立ったり歩いたりするのをサポートします。

インストラクターが口腔ケアを行うのは、その後。おじいさんは素直に口を開け、ケアは順調に進行。「お口のなか、さっぱりしましたね」と笑顔でケアが終了しました。その劇的な変化には正直驚きました。

▼入室の際は、必ずノックする

看護師たちのケアとジネスト氏&インストラクターのケアとでは何が違うのか。

ユマニチュードは認知症ケアの「技術」ですが、そこに通底しているのは、認知症患者の人間としての尊厳を守ることです。

技法の4つの柱とされているのが「見る」、「話す」、「触れる」、「立つ」。

これだけでは特別変わったケアではないと感じますが、この4つには本人を傷つけず、介護を受け入れてもらう配慮が行き届いています。この4つのコミュニケーションの柱を使い、さらに介護をする人がケアを受ける人のもとを訪れ、立ち去るまでを5つの手順に分け、それを連続したひとつのシークエンス(流れ)として行うことがユマニチュードケア実践の基本です。

映像のシーンを例にとると、こうなります。

看護師たちは「お口をきれいにします」と勝手に病室に入るのに対し、ジネスト組はノックし、反応を得てから入室しました。看護師たちはケアという任務を遂行するために、自分の仕事場へ入るような感覚でさっさと病室に入る。ジネスト組はノックをして患者の同意を得たうえで入室するわけです。

看護師のケースはケアする看護師に主導権があるのに対し、ジネスト組は「同意を得る」ということで主導権を患者に与えるわけです。ちなみに後でユマニチュードの指導書を読んだところ、このノックにも方法論があって、ノックしたら3秒待って、またノック、というのを続ける。それで3分反応がなかったら、ケアは諦めるそうです。

入室後も大きな違いがあります。

看護師たちは普通の体勢でケアしようとするのに対し、ジネスト組はおじいさんの正面から入り、低い姿勢で患者と目を合わせるようにします。ベッドに横になっている患者に普通に接しようとすると、見下ろす形になる。ユマニチュードの技法では姿勢を低くして、患者と介護者が視線を同じ位置にすることが大事なのだそうです。また、認知症患者は視野が狭くなっていることが多く、後ろや横から声をかけられても、気づきにくいし、恐怖を感じやすい。だから、正面から目を見つめることが大切だともいいます。