――数十名の職場の管理職をしていますが、メンタルによる休職者や休職予備軍が多いのが悩みです。

心に、いわゆるメンタル(ヘルス)の問題を抱えている人は、僕は職場の「カナリア」だと思うのです。

ご存じのように、カナリアはかつて炭鉱で、ガスの異常を感知するために使われました。カナリアの異常は多くの炭鉱夫の身に危険が差し迫っているということ。

それと同じで、職場に1人でもメンタル不調者が出たら、潜在的な予備軍はほかにもいると考えたほうがいいでしょう。メンタルの不調は、単に個人の問題にとどまらず、職場全体の問題でもあると考えるべきです。場合によっては、マネジメントに問題がある場合もあります。

――多かれ少なかれ、仕事とは憂鬱なものなんじゃないですか?

先日、熊本県のある会社を訪問する機会がありました。平均年齢が29歳の小さな企業ですが、社員がみんな「金曜日になったら憂鬱になる」と言うのです。「こんな面白い人がいる会社、2日も休むなんて辛い」と。できれば、職場をこれに近い雰囲気に持っていくことが、1つの方法だと思います。

――どうすればそんな職場にできますか?

「ロサダの法則」という研究結果があります。アメリカのデータですが、人間が意欲を持って働けるのは、3回褒めて1回叱るくらいの割合まで。それ以上叱ったらやる気が下がってしまうそうです。

ちなみに、いい組織の場合、「褒められる」と「叱られる」の比率が6:1。この法則に従うならば、一度叱るとしたらその前後3回くらいはにっこり笑って「いつもご苦労さん」と褒めなくてはいけない。

――そんなに褒めなきゃいけないんですか……。出口さんは、元気がない部下がいたらどうしますか?

昔、僕の下に入った部下に「あまり楽しそうには見えないけれど、どうしたの?」と聞いたら「楽しくありません」と言う。「どうしたら楽しくなるの?」と聞いたら、「あまりいいアイデアは浮かびませんが、出口さんが1週間に1回くらいお昼をご馳走してくれたら楽しくなるかもしれません」と言うので、それから半年間本当におごり続けました。そして「そろそろ楽しくなってきた?」と聞いたら「ちょっとはマシになりました」と言う。彼はその後、頑張って実績を残しました。

――そこまでしてくれたら、頑張らざるをえないでしょうね(笑)。

メンタルの問題は、一定の確率で誰にでも起こりえるものだと思います。ですから、メンタル不調者本人への対応で大事なのは、風邪などの「普通の病気」と同じように扱ってあげることではないでしょうか。普通の病気なら、早期発見・早期治療が大事なのは常識です。メンタルもまったく同じだと思います。

Answer:メンタル面の問題を起こす人は、「職場のカナリア」だと考えましょう。

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長兼CEO

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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