長く覚えていられない、すぐに思い出せない……という記憶力の悩みを、ゲーム感覚で克服する「チェイン記憶術」を開発した岩波邦明さんが、脳研究の第一人者、池谷裕二さんに、「人間の記憶のこれまでとこれから」について聞いてきました。「鳥のほうが人間より記憶力がいい」「インターネットで脳の使い方が劇的変わった」など、脳と記憶にまつわる刺激的なお話を2回にわたってお届けします。

※本記事は『人生を豊かにする≪岩波メソッド≫チェイン記憶術』からの転載です。

チェイン記憶術は変人になるトレーニング?

【岩波】ちなみに、情報と情報をつなぐ「チェイン」は、なるべく変なものだったり、ありえないシチュエーションをイメージすることを推奨しています。たとえば「ワックス社の売上が35億円」というのを覚えるとしたら、「海で珊瑚(=35)にワックスをかけまくるおじさん」とかいうように。

【池谷】専門用語では「Salience(セイリエンス)」といいます。つまり「突出性」や「特異性」こうした目立つものがあったほうが、引っ掛かりができて、記憶に止まりやすい。心理学では「アンカリング」ともいいますね。

【岩波】せっかくチェインをつくっても、日常目にするような、ありふれたモノやコトだと忘れてしまいます。だから、今までどこでも聞いたことのないような、変なもののほうが印象に残るし、思い出しやすいのでは、と。

【池谷】なるほど。でも僕には「海で珊瑚……」は思いつきませんね(笑)。他の人から見たら飛躍しすぎているように見えるけれど、たぶん岩波さんの中ではピンとくる何かがあったわけですよね。

【岩波】はい。逆に他の人がつくったチェインを見ると、自分では絶対に浮かばないなと感じることもあって、面白いなと思います。ただ実際、他人がつくったものよりも、その人個人の中から出てきたもののほうが使いやすいですね。

【池谷】それは「ペリコンシャスネス」に関係がありそうですね。ふだんは意識にのぼらないけれど、自分の守備範囲のちょっと外枠ぐらいにあるもの、「周辺意識」といわれるのがペリコンシャスネス。そのあたりをイメージするのがいいのかもしれません。

とはいえ、普通の人はなかなか変なことって思い浮かびませんから、チェイン記憶術は変人になるトレーニングといってもいいわけですね。変人といってもただの変態じゃなくて、イマジネーションに柔軟性、ダイナミクスを持たせるという意味での変人ですよ。 それはやっぱり記憶をガチガチに固めないからこそできるというか、記憶力が悪いからこそ記憶力を効率的に高める方法が手に入れられるという側面もあると思います。