営業マンの「サ行」を疑え

生命保険会社から見れば、営業マンなど「いずれ辞める人」という扱いだ。多くの人は親兄弟や親戚、友達を保険に加入させると、新たな契約が取れなくなって用済みになる。

そんな世界で20年生き残っている、「ブラック営業マン」を自称する男性が言う。

「私が生き残っているわけは、自分から話すのではなく、お客さんを観察して、聞きたそうなことを話すように努めたから」

客の話を聞いていると、たとえば「この人は掛け捨て保険が嫌いだ」というのが何となく伝わってくるという。そこで掛け捨て保険と、貯蓄性のある終身保険の両方を提示し、客が「終身のほうがいいかなあ」と言ったら、「そうなんですよ。さすが、お目が高い!」と誉める。言い方は人によって変えるとしても、とにかくその人が聞きたそうなことを言えばいいのだ。マッサージに行って、もし「なんでこの程度で来たの?」と言われたらカチンとくるだろうが、「すごく凝ってますね」と言われるとうれしくなるではないか。人には、聞きたい言葉、言ってほしい言葉があるのだ。

そんな心理を突くブラック営業マンはこう続ける。

「何度か会っていると、お客さんは同じ話を繰り返すようになる。そんなときは内心『また、この話か』と思っても、初めて聞いたかのように、『そうなんですか』『すごいですね』と言います。気に入られるために演技してるだけですよ。そうやって1時間ぐらい我慢して話を聞けば契約が取れるんだから」

すべての営業マンがこんな“ブラック”ばかりではないが、調子の良すぎる態度には気を付けたい。後田氏も「保険を営業マンの人柄で決めてはいけません」と注意を促す。

「私は保険会社に勤めていた頃、生真面目に提案書を上から読んでも、あまり契約が取れないことに気付きました。商品の説明なんて専門用語ばかりなので、お客様が途中で飽きてしまうのでしょう。売れる営業マンは説明を簡潔にして、『気になる点はありますか?』と、お客様に質問を促すのがうまい。そのほうが早く勝負がつくんです。お客様はいつも保険のことばかり考えているわけではありませんから、出てくる質問はたいてい似ています。そのため回答をあらかじめ用意しておくのもたやすい。その答えを提示するだけで、お客様は断る理由がなくなっていくんです」(後田氏)

後田氏も、営業にはそういった技術的な側面もあるのだと気付いてから、「お客様との交渉がおもしろくなった時期もあった」と苦笑する。

売れる営業マンは、こういったテクニックに長けているうえ、話し方も慎重だ。うっかり失言をして、人として嫌われてしまうと、客は何を言っても耳を貸さなくなるからだ。後田氏は、口のうまい営業マンの特徴として、こんな例を挙げた。

「以前“サ行”を意識して話す同僚がいました。『さすがですねえ』『知りませんでした』『素晴らしいです』『正解です』『そうですか』。これを冗談交じりに“サ行の法則”と呼んでいました」(後田氏)

そういえば前出のブラック営業マンも、口では「そうですか」「すごいですね」とサ行を連呼すると言っていたではないか。

にこやかな顔でサ行の言葉だけを繰り返す営業マンには、疑ってかかったほうがいい。