構造改革は重要だが……

言うまでもなく、ソニーは開発した製品を世に送り出すメーカーだ。エレクトロニクス分野で先端、最先端を走ることを期待された企業だ。実際、その期待にも応えてきた。消費者の生活に大きな変化をもたらしたとして大いに評価された製品もある。そんな企業が陥っている目下の経営不振を脱却する手段は何かと問われて、同社長は“不退転の決意で”「構造改革を達成する」と、記者会見のたびに答え続けている。

これは、最先端を走ることを期待されているメーカーの経営者が発することばとしては、いかにも説得力に欠ける。市場はあるいは長年のファンは、そんな印象をぬぐえないでいるのではないか。確かに構造改革は重要だろう。しかしいまさら言うまでもなく、メーカーとして、消費者の注目度の高い企業として、最も重要なのは、“飛び抜けた”あるいは“突き抜けた”製品を世に送り出すことではないだろうか。

平井体制下と言わず、それ以前のストリンガー体制以降、世の中を驚かせ、業界を震撼させる製品は残念ながらソニーから生まれ出てきた記憶がないのは筆者だけだろうか。これは決して単なる感覚的な議論ではない。東京の銀座に行けば、その具体的な意味が理解できるはずだ。具体的には、銀座の3丁目のアップルストアをながめ、そこから徒歩数分の距離にある数寄屋橋交差点の一角にあるソニービルに入ってみればわかる。辛辣なことを書くようだが、ソニーがひたすら構造改革を唱え続けざるを得ない立場に追い込まれた理由が、そこから見えてくる。

かたや、新製品が出るたびに店の前に何日も前から長蛇の列ができるアップルストア、こなた銀座の待ち合わせ場所としてもすでに忘れ去られようとしているソニービル。こうした銀座の風景の意味が、賢明なソニーの社員にはよくわかっているはずだ。言い換えれば、ソニーを襲っている問題は何かそしてそれがいかに深刻であるのかがわかっているはずだ。彼らには最先端の製品を開発しようとする熱意がありあまるほどあり、それを具体的な形にして世の人々から注目を集めたい、買ってもらいたいと願っている。その心情は同社創立以来変わっていないはずだ。

上に紹介した現在の平井氏の言動や姿勢によって、果たして、そうした社員の士気が高まると期待できるだろうか。

かつて2012年、社長就任時に平井氏が1万人の削減を打ち出したとき、会見のフォトセッションで、人指し指を1本たてて微笑んだその姿を、当時の社員がどのような気持ちでながめたことだろう。それ以降構造改革という名の人員削減が続いている環境では、社員とその家族は意識するしないにかかわらず疑心暗鬼の毎日が続いているような気がしてならない。こうした環境のもとでは「明日は我が身か……」と不安になるというのはソニーに限らず、よく言われている世の常だからだ。