社員の士気を高める方策を!

したがって、平井氏にはぜひとも、社員の士気を高める方策を構造改革以上に考えてほしいものだ。

かつて90年代に瀕死のIBMを復活させた名経営者、ルー・ガースナーは、社外に発表する内容は毎回すべて事前に(社内に構築したネットワークを通じて)社員に伝達したという。社員にIBMの方向性に関してそして自分たちの仕事に対して、一瞬たりとも不安を抱かせてはならないというガースナー一流の流儀だった。ナビスコを去り、IBMのCEOに就任した当時は「ビスケットをつくっていた経営者にIBMの何がわかる」と反発されたガースナーはコミュニケーションに秀でた人物だったからこそ、IBMという巨人をよみがえらせる力を発揮できた。この伝で言えば、今回の突然の記者会見開催通知は、どんな事情があるにせよ、社員だけでなくメディアに対しても、ソニーの現況・方向性を十分に理解してもらいたい、という姿勢だと解釈するには無理があるのではないか。

経営者と社員の関係という視点で蛇足を付け加えたい。大賀典雄氏が、ソニーの社長時代のエピソードだ。いわゆる幕張新都心の開発中に、品川駅東側(現在はソニー本社ビルが建つ)にあったオーディオの部隊を幕張に移転する計画が持ち上がった。その案を聞いた大賀氏は即座にノーと言って計画を中止させる。

「品川で働く社員の大半はその西、おもに湘南方面に住んでいる。そうした社員に毎日、東京を通り抜けてはるばる幕張まで通勤させようというのか?」

社員に対して愛情のある思慮だった。

17日の会見で出た数々の質問の回答に対して、メディアは単に評価をくだすだけだ。しかし、社員は違う。社員は経営者の一挙手一投足そしてそのひとことひとことに対して常に鋭敏なアンテナを張っているものだ。同社長の回答ぶりから、ソニーの社員ひとりひとりが、社長本人は真剣にいわば体を張って責任をとろうとしていると見るのか、それとも自身の責任を真正面で受け止めていないと解釈するのか、それが今後のソニーの業績回復にとって最大のカギになるのではないだろうか。

(AP/AFLO=写真)
【関連記事】
【ソニー】平井一夫社長の“失われた2年間”と復活への厳しい道のり
どこまでも続く「ソニーの一人負け」
ソニー、パナ、シャープ 増収増益のウソ
なぜ日本の家電メーカーは愛されないのか?
ソニー社長兼CEO 平井一夫 -「さよならストリンガー」勝負の2年目