東日本大震災から3年以上過ぎた現在、震災関連の死者数が2万人を超えた。我が国では地震予知の研究を数十年も行ってきたはずだが、なぜ事前に予知できなかったのか?

本書は、朝日新聞科学医療部のベテラン記者兼編集委員がその実情に迫った優れたドキュメンタリーである。

新聞記者には葛藤がある。記事を書く際に自らの価値判断をどこまで書き込んでよいものか。事実を正確に伝える一方、限られた字数の中で背景と今後の予測まで読者に知らせたい。著者は、巨大災害に直面した地震学者という「人」にポイントを置き、地道に証言を拾いながら日本の危うい状況を克明にリポートした。

震災とは人や建造物が被害に遭ったときに発生する。そして地震学者は「学者」である以前に、「人」としての思い込みや情感にも左右される。「政治や事件ばかりでなく、中立的に見える地震や防災行政、科学技術の報道に触れるときにも、背景に人間的な要素が大きく絡んでいる」(254ページ)のだ。このように「3.11」を読み解くと、新聞紙面では見えない姿が現れる。

評者が専門とする地球科学から判断すると、実は東日本大震災はまだ終わっていない。たとえば、東北沖で起きるマグニチュード8クラスの誘発地震、陸上で起きる直下型地震など、約10年にわたって警戒が必要なことは我々の「常識」だ。

ところが、こうした喫緊の警告が一般市民へ一向に伝わっていない。その原因が、厳密さやメンツにこだわる学者の「本能的な限界」にあることを著者は見逃さない。「社会的な責任を負っている以上、学問的な厳密さにこだわらない見解や、学者でなくても理解しやすい見解を示していくべきではないか。学問に対して忠実に厳密さばかりを追究していくと、社会に対して不親切になり理解は得られない」(102ページ)のだ。

評者もこの意見に大賛成で、「3.11」後には学者のしがらみを超えて発言することにした。すなわち、東日本大震災の次に日本を襲う「南海トラフ巨大地震」の発生予測を、西暦2030年代と敢えて絞ったのだ(『生き抜くための地震学』)。地震予知の成功を待たずにやってくる巨大災害に対しては、「減災」というセカンドベストの選択しかない。

南海トラフで起きる連動型地震、すなわち約20年後に起きることが確実な「西日本大震災」についても、著者はこう語る。「ただ、将来、(中略)直前予知に生かせる可能性が高まったとしても、実際に生かせるのは、次の巨大地震ではなく、その100年以上先と想定される、次の次の巨大地震以降となる」(242ページ)。むべなるかな。災害大国に暮らす日本人すべてに読んでほしい力作である。