先日、ラジオ番組にゲストで出させていただいたが、自分でも驚くほど緊張し、要領を得ないトークで迷惑をかけてしまった。職業柄人前で話すことには慣れているはずなのに。

今、自分の目の前にいない誰か(しかも大勢)に向かって話すのは、慣れない身にはとても辛い。テレビやラジオのアナウンサーは本当にすごいな。そんな気持ちで読んだ本書はとても腑に落ちた。

紹介されているNHK式7つのルールは、会議での説明やビジネスプレゼンテーションの場面でもしっかり適用できるものばかりだ。

たとえば第2のルール「『13文字以内』でタイトルをつける」。テレビ画面の横幅に入る文字数の制約からきているそうだが、実例で読むと、12~13文字はたしかに絶妙な長さに感じる。1分300文字の目安と合わせ、メッセージを欲張りすぎないことが大切だと再確認した。

第5のルールは「『4つの抑揚』で強調する」。「ゆっくり」と「大きく」は自分も心掛けているが、「間を取る」場所と「高さを上げる」タイミングは完全に我流だった。もちろん話し方には個性があっていいはずだが、オーソドックスなスタイルを理解しておくことは重要だと思う。

本書のもう一つの特徴は、心理学を具体的な話し方のノウハウに落とし込んで説明している点だ。心理学者アッシュによれば、先に提示される情報のほうが印象形成に大きな影響を及ぼす(初頭効果)。そこで、話す前に勝負を有利に持ち込むための7つの秘策が提示される(著者は7がお好きみたい)。

また、「身体の表面積をより広く相手に見せたほうが、堂々としたイメージを与える」という知見もある。そこから、演台やレーザーポインタなどを上手に使い、「ライオンのたてがみ」のごとく自分を大きく見せる技法が解説される。

プレゼンテーション終了後、「リスクの検討が甘い」とか「○○に関するデータがない」などの突っ込みはあっても、「話の間の取り方がイマイチ」とか「身体の表面積の見せ方が足りない」などのフィードバックは、まずありえないだろう。話し方の巧拙は自らが意識し、向上させていくしか道はない。自分は結構イケテルと思っている人にこそ、むしろ読んでもらいたい一冊だ。

巻末には、NHK式「やってはいけない7つの話し方」や、話力を高めるトレーニング法が付録になっており、こちらもお役立ち度は高い。心理学にあまり深入りしすぎず、実用性に徹している点にも好感が持てた。

最後に1つ希望を言えば、伝統あるNHKの研修の詳細や考え方についての記述が少ない点がやや残念だった。著者は最近ヒット作連発のようなので、このテーマでもう一冊書いてほしい。

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