破壊的イノベーションは「ローエンド型破壊」と「新市場型破壊」に分類される。前者は破壊的技術が主流市場よりも性能や価格の劣る下位市場に根付き、急速な技術改良で主流市場を侵食していくものだ。後者は破壊的技術が主流市場とは異なる価値基準の新市場に根付き、急速な技術改良で主流市場を侵食するものである。

わかりやすい例をあげれば、今、PC市場を席巻しているネットブックは、今後ローエンド型破壊のケースになる可能性を秘めている。

この数年、ノートPC市場の中心的な販売価格は15万~25万円程度で、各社はHDDの増量やデザイン性の向上等のマイナーチェンジを繰り返し、この価格帯を維持してきた。

ところが台湾メーカーのアスーステックコンピューターやエイサーはインターネット閲覧や電子メール等の基本的な機能に絞り込んだPCを開発し、圧倒的な低価格で販売した。

1台5万円前後で購入できるネットブックは下位市場を獲得し、今やノートPCの販売台数の4分の1を超えるまでになった。この新たな潮流に東芝やNEC、ソニー等の日本メーカーも追随したが、クリステンセンは、主流市場に位置する会社が下位市場に対応しようとしても適応は困難である場合が多いとしている。その理由は、高価格帯の商品と低価格帯の商品ではバリューネットワーク、要するに生産過程における部品等の取引・調達構造が根本的に違うことがあるからだ。

クリステンセンは、このバリューネットワークの点から、トヨタの苦戦を予想した。

トヨタは、小型車からアメリカ市場に参入し、アメリカのビッグ3を小型車から大型車中心の市場へと追いつめていった。しかし、今ではトヨタ自身、レクサスという最高級大型車を主要収益源とするに至った。今やトヨタが、同時に小型車でも利益をあげるのは至難の業であり、そこに経営のジレンマが生じているというのが、その主張の骨子である。

(構成=宮内 健)