成長のチャンスがないわけでもない

【田原】そこで最後に1つ聞きたい。経済学者の中には、日本はもう成長が終わって、成熟の時代に入ったという人もいます。これ、僕は嘘じゃないかと思うのだけれど、どうですか。

【坂根】半分本当で、半分嘘でしょう。建設機械の需要の動向を見ると、いまどこにお金が集まっていて、これからどこに流れるのかということがよくわかります。たとえばリーマンショック後の半年間は、世界中で1回、お金の動きが止まりました。ただ、すべて止まるのは例外的で、どこかの地域が悪くても、お金は必ず他のどこかで動いています。その視点で言うと、日本も成熟の時代に入りましたが、成長のチャンスがないわけでもない。

【田原】どういうことですか。

【坂根】80~90年代、建設機械の需要構成は日米欧の伝統市場が約8割を占めていましたが、21世紀入りを境に新興国などの戦略市場に重点が動いています。これはもう変えようがない大きなトレンドです。だから伝統市場の中だけでいくら物事を考えても成長機会はない。幸いわれわれ日本には近くにアジアという大きな可能性があります。ただ、大きなトレンドの中にも小さな波はあります。リーマンショック以降、日米欧はダメでしたが、悪くなりすぎたので、逆に今後3~5年くらいはアジアは弱く、日本、アメリカはものすごく強気で動く可能性があると見ています。その波をうまくつかまえることが重要でしょう。

【田原】わかりました。ありがとうございました。

坂根正弘
1941年、広島県生まれ。島根県立浜田高校卒。63年大阪市立大学工学部卒業後、小松製作所(現コマツ)入社。90年コマツドレッサーカンパニー(現コマツアメリカ)社長、94年常務取締役、97年専務取締役、99年代表取締役副社長を経て、2001年代表取締役社長兼CEO。07年取締役会長を経て、13年から現職。コマツを世界的なエクセレントカンパニーに育てた立役者。経団連副会長、政府の産業競争力会議の民間議員の論客としても活躍。
田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。県立彦根東高校卒。早稲田大学文学部を卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経てフリーに。幅広いメディアで評論活動を展開。
(村上敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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