がむしゃらに働いているのに小遣いはごくわずか。妻と子どもはそっぽを向き、老親の介護も。こんなに苦しいのに誰もわかってくれない――。ベストセラー『考えない練習』で読者から圧倒的な支持を得た名僧が、あなたの日頃の迷いに対して、考え方の筋道をわかりやすく説く。

まず、マイホームでも車でも、または家電製品や身の回り品でも、何でも買い物をする際には、身の丈に合ったものを買うことが肝要です。自分の収入や支払い能力に見合った買い物ならば、ローンに圧迫されたりはしないでしょう。

けれども人はつい、より高級なもの、言うなれば、分不相応なものに手を伸ばしてしまいます。たとえば住宅の場合、3000万円の家なら自己資金と無理のないローンで買えるのに、背伸びして4000万円の家を買ってしまう。その結果、ローンの支払いが苦しくなったりします。

もちろん、4000万円の家のほうが設備が整っていたり、交通の便がよかったりということがあるでしょう。しかし、つい背伸びをしてしまう心の内では往々にして、そのもの自体がどうしても欲しいというよりも、そうした高級なものを手に入れることで「自分のグレードを上げたい、自分の価値を高めたい」との欲望が働いている場合が多いのです。これもまた「慢」の煩悩のなせる業。

前回、小遣いが少ないと思うのは、欲しいものが多すぎるせいかも、と示唆いたしましたが、ものを買いたくなったり、あるいは飲食などのサービスにお金を使ってしまう一番の理由は「自分の力を実感できるから」だと考えられます。

人はお金を使うことで、ものやサービスを受け取る側になりますが、それは、ものやサービスに関わる人間を支配できるようになるということ、「支配欲」が満たされるということです。つまりお金を介して、自分にはこれだけのものを買う力、サービスを受ける力があるのだと、自分に言い聞かせることができるのです。自分の力を実感することは非常に「慢」を刺激するもので、その快感が強烈なためにくせになりやすく、どんどんお金を使ってしまうことになりがちです。

ちなみに一般的に、日々の生活で精神的に満たされていない人、自分の力を実感できない人ほど、その欠乏感や無力感を覆そうとして、買い物に走るケースが多いように見受けられます。

こうした心のカラクリに気づけば、過度なローンを組んだり、買い物をしすぎたりといったことが、自戒できるようになるのではないでしょうか。

月読寺住職・正現寺住職 小池龍之介
1978年生まれ。東京大学教養学部卒。正現寺(山口県)と月読寺(神奈川県)を往復しながら、自身の修行と一般向けに瞑想指導を続けている。『考えない練習』『ブッダにならう苦しまない練習』『もう、怒らない』など著書多数。