なぜ新卒入社の若手に社長を任せるのか

最近人材の育成や活用(人材マネジメント)に、斬新な工夫をしている企業が多くなってきた。主にITベンチャー系の、急速に成長しつつある企業が多い。偶然ではないだろう。よく言われるように、この業界では優れた人材をグローバルに取り合う競争環境のなかで、人のマネジメントについて本気なのだろう。

まずは、サイバーエージェントという企業。Amebaという名前のブログサービスで有名な企業だが、「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンのもと、事業面でも、また人材マネジメントでも、痛快な仕組みをいくつも取り入れている。

例を挙げれば、「新卒社長」。新卒で入社した若手を選抜して子会社の社長や役員にし、それを通じて経営の経験を若いうちからさせ、育成をしようという施策である。すでに数十人の“新卒社長”がいるという。

もうひとつは、人材マネジメントの基本方針として掲げている「挑戦と安心はセット」という考え方。例えば、挑戦という意味では、頻繁でやや過激な人事異動や前出の新卒社長制度などがある。人事異動については、1年間の異動件数が、サイバーエージェント単体で4500件と、単純に計算して社員数約1500人一人ひとりが3回異動している状況だ。

ただ、同時に安心を支える制度もあり、「毎年・休んでファイブ(有休とは別に5日間の特別休暇付与)」「どこでもルール(既未婚、持ち家・借家関係なく6年目以上の社員に毎月5万円の家賃補助)」などの施策がある。また、制度ではないが、挑戦度の高い仕事についた人材には、上司や役員などによる丁寧なフォローがあるという。

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図1:サイバーエージェントのミッションステートメント

取締役人事本部長の曽山哲人氏によると、サイバーエージェントでの人事戦略の基本は、グローバル企業の強さと、日本企業の強さを融合した企業になることで、驚いたことに、日本企業の強さの要素として挙げられている項目には、「終身雇用」も入る。

終身雇用……。しばらく聞かなかった言葉である。たまに話題にあがるとしても、ネガティブな意味合いで議論されることが多い。IT業界で急成長しつつある企業の人事戦略のなかで、この言葉を見るとは思わなかった。実際、同社のホームページにあるミッションステートメントを見ると、「有能な社員が長期にわたって働き続けられる環境を実現」することが、企業のミッションの一部となっている(図1参照)。