カリスマ書店員の弱点

今度はわらしべ長者的に紹介された書店だけではなく、宇野自身が飛び込み開拓した。「宇野と申しますが」と名乗っては担当者に売り込みに出かける地道な作業だ。

【宇野】僕は書店員さんにすごく世話になって"出てきた"人間なんです。『PLANETS』がまだ数千部の頃に「おもしろい」と言ってくれて、書店でがっつり扱ってくれた書店員さんは、異動になったり辞めてしまった方もいますが、残っている方もいて、やっぱり彼ら彼女らがいまだに僕の本をよく売ってくれている感じですね。例えば、リブロの池袋店さんや三省堂の神保町店さんはいつもすごく『PLANETS』をよく扱ってくれる。7号より前の、『PLANETS』の初期の頃も、書店員さんにはずいぶんと助けられました。書店員さんのサポートはすごく大きかった。本屋って、都市部のカリスマ書店員が作った棚がパクられるというか広がっていくことでブームが起きていくという文化だと思うんですよ。だからカリスマ書店員さんの個人の能力にはすごく感謝しています。でも、その人が転職したり、異動になった瞬間にすべてが崩壊するような事態を何度か見てきているので、彼らのノウハウがなかなか継承されない書店というのはかなり脆弱なシステムだなと思いますね。書店という仕組みはもっと人を大切にしていいはずです。

「都内の書店とのパイプは太い」と自負する宇野は、「地方(の書店への営業)は弱い」とも語る。だが、その地方には、函館で高校時代を過ごし、情報に飢えていたかつての宇野がいるかもしれない。そこにはどう届けるのか。宇野の答えは「たぶんAmazonで買っています」。

Amazonに卸すため、宇野は7号からISBN(書籍に印刷されている国際標準図書番号)を取得した。

【宇野】書店に『PLANETS』を納入する際には7掛けなのに対して、Amazonは6掛け。だからちょっといやだったんですが、規模が大きいし、自分の本がAmazonでやたらと売れることも経験上わかっていましたからね。

8号の制作費は500万円。売り上げは1000万円。自身の集大成として制作に臨んだ『PLANETS』は、差し引き500万円の粗利を叩きだした。以後も、Amazonでの売れ行きは上々だ。ランキングの10位近くまで昇りつめたこともある。販売部数のかなりをここでさばいているのではないか。

主に同人誌ショップで販売した1号と2号が『PLANETS』の幼年期だとすれば、地道に切り開いたアナログ販路で好評を博した3号~7号までは少年期。Amazonに本格参入した渾身の自信作8号で『PLANETS』は青年期に突入した。人間関係に支えられたアナログ販路と、相性の良いデジタル販路の2つを押さえた『PLANETS』の青春は始まったばかりだ。

●次回予告
6月、宇野常寛はFacebook上でこう書いていた。「金が欲しい。事業資金的な」と。それは次の段階へ進む宣言とも読める。「いま僕がやろうとしていることは、個人を食わせるというレベルのものじゃない」と語る宇野は、これから何をしようとしているのか。次回《お金と組織力》、12月16日更新予定。

(文と撮影=プレジデントオンライン編集部)