中央が本尊の「延命地蔵菩薩」。布地の着衣姿は非常にめずらしい。

【島田】日本人は「生命の終わり」への関心が高いんですね。たとえば生命倫理に関して、西洋ではクローン技術など「生命の始まり」に関心を向けます。神による人類創造に関わるテーマだからです。一方、日本では脳死問題など、死に関することに敏感です。またキリスト教やイスラム教は幼少期に洗礼を受けます。仏教では死後に「戒名」を授かるのが一般的です。つまり、日本では人生のうしろのほうに宗教がある。だから、仏教の将来も、まだ時間の余裕があるはずです。

【南】それは卓見ですね。仏教は早急に結論を出すのは絶対にダメです。もし出せても、それは「暫定解」です。一神教的な考え方は、近代社会の1つの原理ですが、それについての疑問があるから、世界的に仏教への関心が高まっているのだと思います。これからは思想的にも社会的にも、ますます混乱していくでしょう。そのときに、焦ってはダメだというのが仏教の教えです。結論が出ないままにやっていく道を探れるかどうか。折り合いをつけて、やり過ごしながら、最後の落としどころまで持っていけるかどうか。それが大切になってくると思います。

青森県恐山菩提寺院代 南 直哉
1958年、長野県生まれ。早稲田大学文学部を卒業後、西武百貨店で勤務。84年に曹洞宗・永平寺で出家得度。約20年の修行生活を経て、2005年より恐山へ。福井県霊泉寺住職も務める。著書に『恐山』『自分をみつめる禅問答』『なぜこんなに生きにくいのか』『「正法眼蔵」を読む』『老師と少年』『語る禅僧』、共著に『人は死ぬから生きられる』などがある。
宗教学者 島田裕巳
1953年、東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術センター特任研究員などを歴任。著書に『オウム真理教事件』『小説 日蓮』『神も仏も大好きな日本人』『戒名は、自分で決める』『葬式は、要らない』『日本の10大新宗教』『創価学会』『オウム なぜ宗教はテロリズムを生んだのか』などがある。
(プレジデント編集部=構成 門間新弥=撮影)
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