ドラマはぐんぐん視聴率を上げ、今年のナンバーワン作品となった(9月時点)。(日曜劇場「半沢直樹」)

ドラマ「半沢直樹」が大ブレークした。

大手銀行に勤める半沢直樹。

「部下の手柄は自分のもの、自分の失敗は部下のもの」。企業の中にあるそんな不条理に、半沢直樹は黙っていない。

「やられたら、倍返し」。自分を苦しめた者、自分の大切な人を追い詰めたやつに倍の仕返しをする。もちろん、単なる私怨ではない。筋は通っている。「倍返し」は、今年の流行語になりそうだ。

半沢直樹に人々が喝采するのは、それが1つの「ファンタジー」だからだろう。実際には、会社の中のさまざまな不条理に「仕方がない」と我慢をしている人のほうが多い。

「やられたら、倍返し」は、爽快なスローガンだが、現実にはなかなかできない。だから、半沢直樹が筋を通しつつ復讐するときに、人々は喝采する。ドラマというフィクションの世界で、現実の代償を得るのである。

「半沢直樹」の大ヒットを見ていると、日本人は変わっていないのだなと感じる。「倍返し」でスカッと爽快になるという構造は、かつての人気ドラマ「水戸黄門」と通じている。最後にカタルシスが得られるまでの「抑圧」の構造が、よく似ているのである。

「水戸黄門」では、黄門様のご身分という錦の御旗があり、印籠を示した瞬間、悪代官らが恐れ入る。一方の半沢直樹には、そのような「身分」はないけれども、知恵と度胸で調査し、証拠を集め、相手を追い詰める。どちらも「悪いやつら」による抑圧が、感情の重要な伏線になっている。

半沢直樹に多くの日本人が共感するということは、それだけみんな我慢しているということだと思う。会社勤めの中で、筋を通したり、正義を貫くというよりは、上司の不条理な命令や、同僚とのしがらみの中で自分を抑えていることが多い。そんな等身大の日本人像が、半沢直樹から見えてくる。