Qある宝石店の店主はなかなか宝石が売れずに困っていた。チラシを配ったり、割引セールを行ったものの、いっこうに効果が上がらない。そんなときに友人から、「20%でも30%でもいいから、値段を上げて売ってみてごらん」という何とも不思議なアドバイスを受けた。半信半疑の店主だったが、藁にもすがる思いで実行してみた。すると、どんどん宝石が売れ始めた。口コミで新規のお客も増えていった。値上げにはどのようなトリックが仕込まれていたのだろう。

同じ内容の情報であるにもかかわらず、情報の受け取り方によって印象が異なるという経験をしたことのある人は少なくないはずである。この宝石店で売っていた宝石は、値上げ前と後ではまったく同じもの。しかし、値上げによって同じ宝石に対するお客の印象が変化し、その結果、売り上げの大幅アップにつながったものと考えられる。

行動経済学では、このように同じ情報や事実であっても受け取り方の差異によって異なる効果が表れることを「フレーミング効果」という。フレームは「枠」や「枠組み」を意味する言葉。人は、1度、ある枠組みで意識が固定されてしまうと、それを覆すことが難しくなることから名付けられた効果なのだ。

プロ野球で速球派のピッチャーと初めて対戦したバッターが、ボールについていけずに3振してしまったとしよう。するとバッターの頭のなかには、「あのピッチャーは速球派で苦手だ」という意識が固定化される。そして、次に打ちごろの緩いカーブを投げられてもタイミングが合わずに空振りすることが多くなるのだが、これもフレーミング効果が働いているからなのである。

先ほどの宝石店でのフレーミング効果がどのようなものだったのか、すでにおわかりの人もいることだろう。そう、多くの人は「希少価値の高い宝石ほど値段が張る」という意識を持っている。だから、値段を下げれば下げるほど、宝石の価値が低く見られて売れなくなる。逆に値段を上げれば上げるほど宝石の価値は高く見られて、欲しいという人が続々と現れることになるのだ。

また、フレーミング効果を活用した販売方法の1つに百貨店の「閉店セール」がある。もともと「百貨店はいい商品を扱っている」という固定的な意識があり、閉店セールというキャッチを見聞きした途端、「処分売りでいい商品が安く買える」という期待が膨らむ。それで大勢の人が殺到するようになるわけだ。