Q日頃、ランチでの50円、100円の出費を惜しんで、自宅からお弁当を持参する女性社員たち。その一方で彼女たちは何万円もする高級ブランドのバッグを買う出費は惜しまない。どう考えても矛盾した行動のように思えてしかたがないのだが……。

どうすれば自分が満足できるか、人は心のなかの「帳簿」で計算をしながら行動を決めているものなのだ。そして、ほんの少し条件が変わるだけで、その心のなかの会計処理は様変わりして、つじつまが合わなくなってしまう。この女性社員のようなケースがそれに該当する。

行動経済学の世界では、私たちの心のなかに1つひとつの行動から得られる損失や利益、コストなどを計算して、それぞれの帳簿につける「メンタル・アカウンティング(心理会計)」の仕組みが存在していると考える。その仕組みを使って測った満足度の大小を判断基準に意思決定をしていると見ているのだ。

たとえば、夏の暑い日に用事があって外出したところ、5分歩いただけで汗だくになってしまったとする。次第に喉も渇いてきた。周囲を見渡すと、目の前の公園には水飲み場が、そして100メートル先には飲み物の自動販売機があったのだが、150円を出して冷たいお茶のペットボトルを買うことにした。

この場合、公園の水飲み場で喉を潤せば、メンタル・アカウンティングの「現金勘定」の残高が減ることはなかった。それなのに、現金勘定を150円減らしてまでもペットボトルを購入したのは、「冷たいお茶を飲めば、喉の渇きを癒すだけでなく、ほてった体を冷やすことができる」という高い満足度を得られると判断したから。そうした満足度のことを経済学では「効用」という。

結局、このケースで冷たいお茶から得られる効用は、本人にとって少なくても150円の現金勘定と同等か、それ以上の価値があったのだ。だから、150円の支出は妥当なものと判断されたのである。そうでなければ、水飲み場の水で我慢をしていたはずである。

女性社員がランチよりも高級ブランドのバッグへの支出を惜しまないのも、「オフィスの仲間で持っているのは私だけ」といったような効用を見出し、現金勘定以上の価値があると判断したからなのだろう。当人にしてみたら、決して矛盾した行動ではないのだ。