中国が狙う「インド洋ルート」
次に関心を示したのが中国でした。しかし、中国は、胡錦濤国家主席がマラッカ・ジレンマを唱えたのと同時期に、クラ地峡を調査したことがあります。けれども、結局中国は運河計画を断念せざるを得ませんでした。
その理由は、そもそも建設に膨大な費用がかかること、マラッカ海峡沿岸国の反発を招くこと、さらにアメリカがマラッカ海峡を中国のために封鎖するような事態になれば、どの道この運河も封鎖されることになるからです。そして何より、タイはアメリカの同盟国です。クラ地峡運河の代わりに、中国は2017年よりマレーシアの東西海岸を結ぶ鉄道の建設を支援していますが、その効果は未知数です。
中国がより期待を寄せるのは、インド洋沿岸諸国からの陸路です。これは、船がマラッカ海峡を通る前に荷物を陸揚げし、あとは鉄道やパイプラインで中国本土まで送るというものです。
現時点で中国が推し進める陸路は、ミャンマーとパキスタンにあります。ミャンマーの回廊はチャウピューまたはヤンゴンから中国の雲南省までを結ぶもので、中国の投資により石油と天然ガスのパイプラインが建設されました。
「真珠の首飾り」戦略とは
2つ目がパキスタンの回廊です。こちらはグワダル港から新疆ウイグル自治区までを道路、鉄道、パイプラインで繫ぐもので、ホルムズ海峡から近いため、航路遮断の危険性を軽減できます。しかしこの回廊は、途中に標高7000m級の山々が連なるカラコルム山脈を越えなければならず、ただでさえ海路より非効率な陸路がさらに非効率になっています。
また、この回廊はパキスタンとインドが領有権を争うカシミール地方を通るため、インドにここを攻撃される可能性もゼロではありません。そして何よりパキスタン自体が政情不安にあり、実際に回廊のインフラが破壊されたり、中国人が襲撃されたりする事件が度々発生しています。ミャンマーでも同様に政情不安が回廊の安全を脅かしています。
これらの回廊をはじめとした中国のインド洋への進出は、当然インドを警戒させます。中国はインド洋を通る航路の安全を確保するために、いわゆる「真珠の首飾り」戦略を取っています。これは前述の経済回廊も含めた、インド周辺国であるパキスタン、モルディブ、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマーなどの港湾建設を支援することで、インドを包囲するように中国の勢力を広げていくものです。