マラッカ海峡という中国の「喉」

貿易量で測れば、マラッカ海峡はアジア地中海で一番どころか、世界で一番重要な海峡に間違いありません。マレー半島とスマトラ島の間に開いているこの海峡は幅が最も狭いところで2.7kmしかなく、平均水深も25mと浅いため、大型船は真ん中の比較的深い帯を慎重に航行しなければなりません。そのため事故や海賊行為、あるいは特定の国の悪意でこの海峡が一時的にでも閉鎖されることは十分起こり得ます。

特に中国は海峡の閉鎖を恐れます。何しろ、ここは中国の総貿易量の60%と、輸入天然ガスの70%が通る、中国にとっていわば喉――それもかなりつっかえやすい喉のような場所です(チョークポイントの「チョーク」は「窒息」を意味します)。

2003年に胡錦濤国家主席はマラッカ海峡の脆弱性を「マラッカ・ジレンマ」と呼び、「特定の国がマラッカ海峡を侵犯し、航行を支配しようとしてきた」と非難しました。「特定の国」とは明らかにアメリカのことを指していました。

もし、ここに運河を造れたら…

かつて中国は、明の時代にマラッカ海峡を支配していたことがありました。中国が世界有数の規模の海上貿易を行っていた明の時代、明はここを支配していたマラッカ王国を服属させ、補給基地として活用していました。しかしこの支配は長続きせず、マラッカはその後ポルトガル、次いでオランダ、イギリスに支配されました。

現在、マラッカ海峡にあるマレーシアやシンガポールは、独立以来正式には中立を保っているものの、シンガポールはどちらかといえばアメリカ寄りで、国内の海軍基地をアメリカの軍艦の補給拠点として明け渡しています。一方、中国には同じ軍事的権利を与えていません。

中国はマラッカ・ジレンマを少しでも緩和するため、タイに運河を造ろうとしたことがあります。マレー半島のくびれには「クラ地峡」と呼ばれる、最狭幅40kmの細い陸地があります。

もしここに運河を掘削することに成功すれば、南の海峡よりも近道になりますし、万が一の際の予備通路として使えます。あらゆる国がここに運河を通す構想を抱いてきましたが、あまりにも難工事になるためどの国も諦めてきました。1970年代には日本が運河建設に関心を示したこともあり、ここに核爆弾を一直線に敷き詰めて一気に爆発させるという何とも大胆な計画が提案されましたが、案の定国会で「被爆国として無神経だ」と、猛反発を浴びました。