中国の軍備は50年後、100年後を見据えたもの
近年中国が海で抱える国際問題を俯瞰すると、どれも多かれ少なかれ第一列島線を支配することに帰結します。尖閣諸島、台湾、南シナ海、海軍増強。どれもアメリカを第一列島線の外に追い出したい動機に起因します。
今のところ、アメリカ海軍は第一列島線内で確固たる地位を築いています。東シナ海にしろ、南シナ海にしろ、台湾海峡にしろ、アメリカは中国沿岸に軍艦を定期的に航行させ、「ここは中国だけの海じゃない」と示威します。
それに応じて中国海軍もここでの行動を活発化させていますが、完全にアメリカ海軍を追い出すにはまだまだ時間がかかりそうです。それでも、中国は50年後、100年後を見据えて、海軍増強と地域での影響力拡大に勤しんでいます。中国は長い戦いに慣れています。100年という時間も、2000年以上の遊牧民との攻防に比べれば短いものです。
特に中国にとってのアジア地中海は、アメリカにとってのアメリカ地中海とよく似ています。マハンは生前、カリブ海の重要性を語るときにヨーロッパ地中海と好んで比較しました。もしマハンが今日生きていたら、きっと南シナ海をカリブ海と比べることでしょう。
主要国が南シナ海を狙う本当の理由
カリブ海の南西にはパナマ運河、そして東側には海全体に蓋をするように島々が並んでいます。パナマ運河からは大量の船がカリブ海に入り、各々アメリカかヨーロッパを目指して枝分かれしていきます。
さらにその航路上にはユカタン海峡やウィンドワード海峡、モナ海峡などの狭い海峡が数多くあり、かつては、それらの海峡を形成する島々はほとんどがスペインやイギリスの支配下にありました。そこでアメリカはこれらの要衝から外国の勢力を排除したいと考え、スペインと戦争をしたりしました。こうしてアメリカは、アメリカ地中海で磐石の支配を確立したのです。
南シナ海も、カリブ海と大まかな地政学的配置は同じです。まず、大量の船がインド洋からマラッカ海峡を通過して南シナ海に入ります。海峡を出た船は、その後各々の目的地に向かいます。中国南部行きの船はそのまま北方向に、中国東部、韓国、ウラジオストク行きの船は台湾海峡から、日本と北米行きの船はルソン海峡から南シナ海を出ます。
ここに並べた国々を見るだけでも、南シナ海の経済的な重要性がわかります。南シナ海はヨーロッパと中東から東アジアまでを結ぶほぼすべての船、全世界の国際貿易量の30%以上が通る世界一通行量の多い海の1つです。すべての輸入品の中でもここを通る原油は特に重要で、中国、韓国、日本のいずれも輸入原油の90%以上を南シナ海の航路に依存しています。