中国が海洋進出を始めた本当の理由

第一列島線とは、中国沿岸と太平洋を分け隔てるように浮かぶ沖合の島々を一筋にまとめた線で、九州から沖縄、台湾、フィリピン、スンダ列島を含みます。第一列島線は中国の海上権力を外洋から内側に抑え込む蓋のようになっていて、中国船が外洋に出るには必ずこの線を通過しなければなりません。

しかも線上の日本とフィリピン、そして韓国には米軍基地が多数置かれており、中国船はアメリカの支配下の海を通らなければならないばかりか、沿岸部自体、アメリカはミサイルや航空機で1時間もかからず攻撃できます。

この意味で中国はロシアと同じ、陸に囚われた生粋の大陸国家です。ロシアの不凍港はほぼすべてが内海(バルト海、日本海、黒海)の中にあり、外洋に出るには海峡、それもアメリカとその同盟国が見張る海峡を通過しなければなりません。同様に、第一列島線は1つの大きな内海の境界線であり、中国船がここを出るにはマラッカ海峡、ルソン海峡、宮古海峡などの狭い出口を、アメリカの監視を受けながら通過せざるを得ません。

第一列島線は、いわば「海の万里の長城」です。陸の万里の長城は、北から迫る遊牧民の侵入を阻止するために作られました。そして河西回廊、オルドス、遼西回廊などの侵入口は特に固く守らなければなりません。

中国にとっては、アメリカこそが海の遊牧民

第一列島線に関しては、アメリカの視点と中国の視点でその意義は正反対になります。アメリカにとって中国海軍は海の遊牧民であり、自分たちが支配する太平洋に出てくることを阻止するために、第一列島線に海の万里の長城を築いて見張っています。しかし、より重要なのは中国からの視点です。

中国にとっては、アメリカこそが海の遊牧民です。理想的には、東シナ海と南シナ海は自分たちの勢力圏であるべきで、そのためには第一列島線を自分たちが管理しなければなりません。ただ問題なのは、その長城の上に今立っているのがアメリカ人であることです。中国は、長城に立つアメリカ人がいつ自分たちの住む場所に攻め込んでくるか、不安で仕方がありません。この不安を払拭するには、武帝が匈奴にそうしたが如く、アメリカ人を海の万里の長城の向こうまで追い出さなければなりません。

そして陸の3つの侵入口と同じで、海にはマラッカ海峡、ルソン海峡、宮古海峡という侵入口が存在します。中国はこれらの侵入口を常に見張り、アメリカ海軍の侵入をいつでも防げる体制を確立しなければなりません。