『PRESIDENT』編集長 星野貴彦
『PRESIDENT』編集長 星野貴彦

――2024年7月から、『PRESIDENT』誌の編集長となりました。

編集長の内示を受けて直後の土曜日に最寄りの書店を訪ねました。

いまプレジデント誌の発売日は第2・第4金曜日なので、発売2日目の書店にはまだ山のように小誌が積まれていました。それを見て、物流の偉大さに身震いしました。月2回の発売日には、全国の書店にこのように雑誌が届くのです。かつては特別に意識することはなかったのですが、一度雑誌から離れていたので、「すごい仕組みだな」と思い知りました。

雑誌を取り巻く様子は、大きく変わっています。たとえば発売日も変わりました。私がプレジデント編集部にいた7年前、発売日は第2・第4月曜日でした。ビジネスパーソンが動き出す月曜日にできるだけ新鮮な情報をお届けするためです。ところが街の書店が減り、書店の集客は週末中心に変わりました。

そうした状況で、雑誌に求められているのは、ネットでは手に入らない深い情報だと捉えています。週末に手に取っていただき、じっくりと楽しめる誌面を目指していきます。

――星野編集長は、雑誌編集部からPRESIDENT Online編集長へ。そしてこの度雑誌『PRESIDENT』の編集長に就任ですね。Webと雑誌、両方経験してきて戻ってきた今、それぞれの特性をどう捉えていますか?

印刷物には独特の魅力があります。誌面のインクは静的、ディスプレイの明滅は動的です。約7年間Webの仕事をしていたので、せわしないネットから、落ち着いた紙に、戻ってきた感覚です。

PRESIDENT Onlineでは年間約5000本の記事が出ています。ネット上の世論を察知し、最新の話題に次々と記事をぶつけていきます。「せわしない」という表現では落ち着きすぎかもしれませんね。

一方、プレジデント誌は月2回刊、年24冊です。毎号60ページ前後の大特集が目玉です。トレンドを追いかけるだけでは、うちの特集は組めません。時流を読みつつ、物事の本質を問う情報を編んでいます。

私はよく、ウェブメディアを「超巨大フードコート」、雑誌を「高級フレンチレストラン」にたとえます。ウェブメディアは、なにをどれだけ読むのかは自由です。サイトとしては幅広いジャンルの記事を展開していますが、読者によって読む記事は異なります。一方、雑誌は、一冊を読み通すという前提で、満足感をもっていただけるように知恵を絞ります。雑誌は「音楽アルバム」で、ウェブメディアは「シングル曲」と言ったほうがわかりやすいでしょうか。

こんなふうに雑誌とウェブメディアは似て非なるものです。私は雑誌編集者としてのスキルしかありませんでしたが、結果として、PRESIDENT Onlineは日本有数のビジネス情報メディアになりました。それはプレジデント誌の「世間の捉え方」を、ウェブでも「おもしろい」と評価いただいたからだと思っています。

――星野編集長が考える「PRESIDENTらしさ」を教えてください。

プレジデント誌には「記者」がいません。私たちは「記者」ではなく、「編集者」です。記者の最優先は「新しい」ですが、編集者の最優先は「おもしろい」です。

どちらにも価値はあります。ただし記者は、自身の価値判断から「なにを報じるべきか」と考えることを求められます。俗に「ニュース判断」と呼ばれるものです。「社会の木鐸ぼくたく」などと呼ばれるのも、そうした機能があるからです。

一方、われわれは「ニュース判断」はしません。「社会の木鐸」でもありません。どれだけ新しい話題でも、読者にとっておもしろくなければ、記事にはしないからです。言い換えれば、読者の代理人として働くのが編集者です。おもしろい話題を探し出し、とびきりの書き手を見つけ、読者が膝を打つ記事を作ります。そうしなければ、本当に仕事の役に立つ記事は出せないと考えています。

ビジネスジャンルでこうした立場をクリアにしている媒体はほかにないはずです。いろいろなご評価はあると思うのですが、ユニークな媒体であることは間違いないと思います。自画自賛ですが、うちの誌面は本当におもしろいと思っています。

――PRESIDENT Online編集長から雑誌『PRESIDENT』編集長へ。意気込みを教えてください。

いま「古いメディア」はどこも苦戦しています。新聞やテレビは、才能のある人材がネットなどに活躍の場を移すケースが目立ちます。雑誌も「古いメディア」ですが、私は希望をもっています。

雑誌は「マス媒体」に数えられますが、個々の規模は決して大きくありません。だからこそ、独特の個性があり、ネットでも不思議なほどの存在感をもって、たくさんの読者を集めています。

本来、ネットはすべてをフラットにします。「YouTuber」がみんな似たように見えるのは、YouTubeというメディアが大きすぎるからです。新聞やテレビが個性を出せずに苦しんでいるのも、規模が大きすぎるからではないでしょうか。それに比べて、われわれは小回りが利きます。だからこそ、読者が身を乗り出すような企画を繰り出せるのです。

すべてがフラットになるネット中心の時代状況で、雑誌は貴重な「ターゲットメディア」としての価値を評価され、ご支持いただいていると捉えています。創刊60年を超える歴史をもつ媒体として、記者ではなく編集者が作る媒体として、読者の皆さまの期待にお応えしていきます。