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かつて「転職35歳限界説」が唱えられたが、「35歳だから転職できないということはない」と、転職の専門家であるmotoさんは語る。しかし、誰でも転職できるかといえば、現実は甘くはない。30代が年収を上げるためのキャリアアップを実現するには、リアルな転職事情を知り、戦略を立てる必要がある。

スカウト型の転職サイトで、自分の市場価値を確かめる

結婚や子育て、マイホーム購入など、ライフイベントが多い30代は、お金の不安が増える時期。仕事の経験を重ね、ある程度の自信を持つだけに「他の会社に行ったら年収が上がるかも」と思うこともあるだろう。

しかし、それは「捕らぬ狸の皮算用」と指摘するのは、起業家・著述家のmoto(戸塚俊介)さんだ。短大の新卒で地方ホームセンターに入社後、マイナビ、リクルート、ベンチャー企業など8社への転職で年収240万円から1億円(副業を含む)の会社員になり、現在は自身が創業した転職広告会社の社長を務める「日本一の転職のプロ」だ。

「そもそもなんですが、まず、選考に受からないことにはどこにも行くことはできません。転職するかしないかを悩む以前に、転職先があるかどうかわからない。ですから、まずは自分に来るオファーがどういうものか=どれくらいの市場価値があるのか、それを確かめることが第一です」

転職活動では今の上司や会社からの評価ではなく、「転職市場における市場価値」で他人と比較される。すぐに転職したいと思わなくても、とりあえず転職サイトに登録してみるといい。自分の市場価値がすぐにわかるからだ。

「30代ならビズリーチなど、スカウト型の転職サイトを使いましょう。自分の経歴を書いておけば、いろいろな会社からスカウトが来ます。そもそもスカウトが来るのか。そこから面接までいけるのか。書類選考すら落ちて進まないこともあります。もし、内定が出てオファーの金額を提示されたとき、その時点で初めて今の会社に残るか、出るかを考えることができるんです」

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moto(本名・戸塚俊介)
HIRED株式会社 代表取締役

1987年長野県佐久市生まれ。新卒で地方ホームセンター(綿半ホームエイド)へ入社後、マイナビ、リクルートなど8社へ転職し、営業部長や事業責任者を務める。2018年に副業で立ち上げた転職情報メディア『転職アンテナ(https://tenshoku-antenna.com/)』が評判に(2021年に会社売却)。現在は2019年に創業した転職広告会社HIREDの代表取締役。自身の転職経験を基にキャリア戦略を綴った書籍『転職と副業のかけ算』は発行部数10万部を超え、転職希望者のバイブルに。https://hired.co.jp/

今すぐ転職したいなら、転職エージェントと会う

今すぐに転職することが前提なら、転職サイトより転職エージェントを使う方がいい。専任のエージェントが対面で会ってくれて、より具体的に自分に合った求人を紹介してくれる。

「初めて転職する人は、リクルートエージェントやデューダなど、大手の転職エージェントでよいと思います。ただ、30代で行きたい業界が固まっているなら、特化型の転職エージェントがいいでしょう」

ただ、エージェントも商売だ。彼らは転職希望者を売り物にしているので、市場価値が高いと思えば親身になってくれるが、こちらの転職の動機がふわっとしているようでは、袖にされることもある。

「結局、自分がどうなりたいのか。それに合わせてキャリアを突き進んでいくというのが、僕はよいと思っています。年収を上げたい、やってみたい仕事がある、ワークライフバランスをよくしたいとか。僕の場合は、とにかく年収を上げたかった。大手企業の部長になるという時間軸より、ベンチャー企業の部長になる方が、若いときに高い年収を得られると思ったので、ベンチャー企業の営業としてキャリアアップを重ねました」

転職すべきタイミングは、仕事が最高潮のとき

転職することはゴールではなく、あくまで自分が理想とするキャリアを築く手段。しかし、実際には後ろ向きな理由で転職を考える人が多いという。

「転職して年収を上げようとか、前向きな理由の人は、僕から見て多くても3割くらい。それ以外は今の会社の将来が不安とか、仕事がつらいなど、ネガティブな理由になりがちです。不満がある状態での転職はあまりよくない。転職した会社でどう活躍するかが、将来の自分のバリューを決めることになります。しかし、会社を辞めることが目的になると、またよくわからない会社に入り、その後もうまくいかないことにもなりかねません。むしろ、転職すべきタイミングは、仕事が最高潮のときです」

今の職種で年収を上げる「軸ずらし転職」

motoさんのように、理想の生活を目指してとにかく年収を上げたいなら、どのような戦略を立てるべきなのか。

「30代で中小から大手企業に転職するのは相当厳しい。たとえできたとしても役職が下がるのが普通なので、年収アップは良くて横ばいか下がるケースが多い。それよりは、他の業界に転職した方が年収は上げやすい。私は『軸ずらし転職』と呼んでいるのですが、今の職種を軸にして、年収がもっと高い業界に転職するのです。できれば、今の業界と一番近しい領域の業界に行くのが理想的。ただ、それができるのは35歳くらいまでで、それ以上になると、新しい業界に行くのは難しくなります」

30代からベンチャー企業に行くのも、キャリアアップにつながりやすい。

「年収も役職も落とさないというのが、僕のキャリアアップの定義。企業のステータスはベンチャーの方が意外に上がりやすい。大手の部長よりはベンチャーの取締役の方がキャリア的には上に見えます。とにかく経営サイドに近づいていくことが大事です」

企業を成長させる視点を持つ

経営サイドに近づくには、ビジネスパーソンとして成長し実績を残すことが不可欠だ。そのため、自分がスキルを得られる会社に行きたいと思う人は多い。だが、大切なのはそれだけではないと、motoさんは語る。

「自分が成長できる会社に転職したいというのは、向上心があるように見えますが、根底にあるのは受け身の考え方です。私もかつてそうでした。大事なのは、自分が起点となり、絶対にやりきって成長させるという姿勢。『自分が成長させたい企業はどこか?』という視点を持たないと、経営サイドに近づくことは難しい」

motoさんはリクルート時代の上司から仕事への取り組み方を学び、見直したという。そして、目の前の仕事に集中して組織を成長させ、最高のタイミングで転職を繰り返し、その結果としてキャリアアップを実現した。自分の力で、どんな企業でも成長させてみせる。その経営視点を持ち、地道に努力できる人こそ、どの会社でも喉から手が出るほど欲しい人材だ。

(取材協力=戸塚俊介 執筆=真野裕之)